資産運用アドバイザーの中立性に揺らぎ 証券・銀行系も条件付き認定か 川辺和将
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岸田政権が明記した資産運用の「中立的なアドバイザー」に証券会社や銀行のグループ会社を認定する可能性が浮上している。
出発点は「金融業者への不信感」だったのに
岸田政権は昨年11月、看板政策「資産所得倍増プラン」(以下、「プラン」)をまとめ、「中立的なアドバイザーにより顧客本位で良質な(金融や投資に関する)アドバイスが広く提供されるよう取り組んでいく」と盛り込んだ。検討段階では「中立的なアドバイザー」を認定する新組織を設け、既存の金融機関を蚊帳の外に締め出すとみられていた。
しかし、ここにきて証券会社や銀行のグループ会社を条件付きで認定する可能性が浮上している。プランに隠れる“仕掛け”に着目しつつ、予想外の展開を見せる議論を概観する。
国は「貯蓄から資産形成へ」の旗を振るものの、個人が保有する金融資産約2000兆円の大半は預貯金に眠ったままだ。昨年末、税制改正大綱にNISA(少額投資非課税制度)の大幅拡充を盛り込んだのを機に、投資の機運を盛り上げたいのが金融庁の本音だが、なかなか思い切りにくい難しい立場にある。というのも、2019年夏の参院選前に「老後資金2000万円報告書」が騒動になってから、中央省庁が投資の必要性について踏み込んだ発信をすることは半ばタブー視されているからだ。
投資を推進するキャンペーンを打ち出しにくい以上、国民があくまで自発的に投資に踏み出せるよう制度を整えるのが当局の役割ということになる。そこで首相の諮問機関である金融審議会で、国民の金融知識を高め、投資初心者の背中を押すアドバイザーの確保に向けた制度の整備が焦点化した経緯がある。
遠い「顧客本位」
アドバイザーの位置づけについてどんな議論があったかを振り返ろう。
昨年9月に発足した金融審の作業部会「顧客本位タスクフォース」では、地方銀行が複雑でリスクが高い仕組み債の販売に過度に力を入れる姿勢を問題視する声が上がった。そのような金融業者に投資の指南役を任せれば、顧客のニーズを無視した悪質なアドバイスが横行しかねない。そこでタスクフォースは、金融業者から独立した立場で顧客本位のアドバイスができる人材を確保する方法について、優先的に調整した。
これまでの議論で固まった制度の方向性は、24年をめどに国が設置する新たな公的組織「金融経済教育推進機構」(仮称)がファイナンシャルプランナー(FP)のうち、適任とみられる者を「認定アドバイザー」に選ぶというものだ。
金融商品取引法は証券会社など「第1種金融商品取引業」とは別に、助言に特化した「投資助言・代理業」という区分を設けている。タスクフォースがまとめた案は、認定アドバイザーに選んだFPに投資助言・代理業の登録をさせ、「つみたてNISA」の対象となる金融商品などに限ってアドバイスできるようにする──というものだ。
アドバイザーの名称を巡っては曲折があった。当初、タスクフォースは「独立的なアドバイザー」という言い回しも用いたが、次第に「中立的なアドバイザー」という表現に統一し、プランにもそう載った。表現を変えた背景には、「独立」を掲げる金融業者の中には仕組み債の販売に偏る例が少なくないことがある。当局が「独立」のお墨付きを与える判断の是非という微妙な議論を、言葉の置き換えによってたくみに回避した格好だ。
表現の揺らぎはこれで終わらなかった。タスクフォースは昨年12月9日、「中間報告」を公表したが、事務局が作成した初稿には章題に「中立的なアドバイザー」という言葉を掲げていた。しかし最終稿では章題が「顧客の立場に立ったアドバイザー」となった。専…
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週刊エコノミスト
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