テクノロジーエコノミストリポート

国産ロケット巻き返しへ 低コスト競争のライバルは米スペースX 鳥嶋真也

昨年10月、種子島宇宙センターで打ち上げのリハーサルにあたる「1段実機型タンクステージ燃焼試験」を行うH3ロケット 渡部韻撮影
昨年10月、種子島宇宙センターで打ち上げのリハーサルにあたる「1段実機型タンクステージ燃焼試験」を行うH3ロケット 渡部韻撮影

 イーロン・マスク氏率いる米スペースXの次世代ロケット「スターシップ」が実用化されれば、日本のH3ロケットでも太刀打ちは難しくなる。

今年期待の「H3」初打ち上げ

 日本の宇宙開発にとって、2022年は波瀾(はらん)万丈の一年となった。1月には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発中の次期大型ロケット「H3」が、技術的問題により初打ち上げを延期。IHIエアロスペースなどが出資して立ち上げた民間企業「スペースワン」のロケットも、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で初打ち上げを延期した。10月には、JAXAの小型ロケット「イプシロン」が打ち上げに失敗。日本のロケットの信頼性は高いとみられていただけに、大きな衝撃が走った。一方、衛星ベンチャーは堅実な歩みを見せ、それぞれ新たな衛星を運用に乗せ、サービスの提供を開始するなど、明るい話題が多く見られた。

 23年、日本の宇宙開発はどうなるのか。世界の動きとあわせ、その展望を解説する。

 今年、日本の宇宙開発にとって最も大きな話題となるのが、H3ロケットの初打ち上げである。

 H3は現在運用中の「H2A」の後継機として、三菱重工とJAXAが共同で開発している次世代の大型ロケットだ。H3は基幹ロケット(安全保障を中心とする政府のミッションを達成するため、国内に保持し輸送システムの自立性を確保するうえで不可欠な輸送システム)に位置づけられているほか国際的な衛星の商業打ち上げ市場での活躍も期待されている。

 昨今、低コストのロケットの台頭や、衛星の多様化などにより、H2Aは力不足になりつつある。そこでH3は「柔軟性・高信頼性・低価格」の三つの要素を兼ね備えた使いやすいロケットを目指している。これまで日本が培ってきた技術や得意とする技術、そして3Dプリンターなどの新しい技術を結集・融合して開発されている。

 開発は14年4月から始まり、当初は20年度に試験機1号機を打ち上げることを目指していた。しかし、1段目に使うロケットエンジン「LE─9」の開発で、技術的な問題が相次いで発生。2度にわたる計画見直しと打ち上げ延期を強いられた。現在までに問題の多くは改善し、23年2月13日の試験機1号機の打ち上げを目指して準備が続いている。

 もっとも、この試験機1号機の打ち上げをもってH3が完成するわけではなく、その後も開発は続く。特に試験機1号機用のLE─9は本来目指していた仕様ではなく、計画どおりの打ち上げを実現するために性能を落とした、いわば“デチューン”されたものであり、本来の性能をもったエンジンは試験機2号機以降から投入されることになっている。また、低コスト化の大きな肝である生産ラインの立ち上げなど、試験機1号機の打ち上げ後も、本格的な運用開始に向けやるべきことは山積している。

 今後、H3の運用が無事に軌道に乗り、そして基幹ロケットと商業用ロケットという二兎(にと)を得ることができるのか。それを占う試金石として、試験機1号機の打ち上げは重要なものとなる。

「小型」の開発は活発

 日本では小型衛星打ち上げ用の小型ロケットの開発も活発だ。IHIエアロスペースやキヤノン電子、清水建設、日本政策投資銀行が出資して立ち上げたスペースワンは、早ければ2月以降にも、超小型ロケット「カイロス」の初めての打ち上げを、和歌山県串本町の発射場から実施する。

 近年、質量が数十から100キログラム級の超小型衛星の打ち上げ需要は世界的に高まっており、それらを手ごろな価格で打ち上げることを目標とする。IHIエアロスペースが培ってきたロケット技術や、キヤノ…

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週刊エコノミスト

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