経済・企業

インタビュー「賃上げは生産性向上と一体」後藤茂之・経済再生担当大臣(編集部)

 物価上昇率を上回る賃上げをどう実現するのか、担当大臣に聞いた。(聞き手=稲留正英/村田晋一郎・編集部)

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── 岸田文雄首相は年頭会見で、「物価上昇率を上回る賃上げ」を今年の重要な政策課題に掲げた。

■物価上昇に負けない継続的な賃上げを実施するには、イノベーション(技術革新)や人への投資を進めることによって、企業の生産性や付加価値を高めていくことが必要だ。商品やサービスの適切な価格付けを通じて、各企業や業界全体のマークアップ率(編集部注:販売価格を原価で割った比率。1より大きいほど付加価値が高い)をしっかりと高めていく。これにより、下請け企業等がしっかりとコストの上昇を転嫁できる環境を確保していく。

 政府が昨年10月に決定した総合経済対策では、中堅・中小企業に対して事業再構築や生産性向上と一体で行う賃金の引き上げ支援を大幅に拡充した。これに合わせて、リスキリング、日本型職務給の確立、円滑な労働移動を三位一体として構造的な賃上げを進めていく。また、今年の春闘では、最大限の賃金交渉をしていただくよう、労使にお願いした。

── これまで、日本で賃上げが実現できなかった要因は。

■まず、デフレ経済で物価が上がらなかったことがある。また、日本企業はグローバルな競争が激化する中で、コストカット重視の経営を行ってきた。そのために、人への投資が不足し、研究開発投資も抑えられていた。結果として、新たな価値の創造が停滞し、日本企業は競争力を失う一方で、預貯金、内部留保が非常に増えてきた。だから、「新しい資本主義」の推進で、成長と分配の好循環を起こし、分厚い中間層を復活させていく。

「社会保険料の壁」は撤廃

── 大企業の正社員については賃上げの機運が出ているが、非正規雇用では、どう実現するのか。

■非正規は正規に比べて賃金が低い。それから、各種手当や能力開発機会が乏しいなどの問題点があると強く認識している。「構造的な賃上げ」は非正規の労働者に対しても、及ぶことを申し上げたい。今回の経済対策でも、労働基準監督署の体制を強化し、待遇差の問題となりうる事案を把握して、指導につなげていくことを盛り込んだ。同一労働同一賃金の順守を徹底する。正社員として働くことを希望する非正規労働者に対してはキャリアアップ助成金を拡充して、非正規を正社員に転換する企業への支援を強化していく。

── パートで働く主婦などは、年収103万円を超えると所得税を、106万円を超えると社会保険料を支払う必要があるため、時給が上がっても、逆に労働時間を短縮してしまう問題が指摘されている。

■女性就労や高齢者就労の制約となっているような税制や社会保障制度は、働き方に中立なものにしていくことが重要だ。例えば、被用者保険の適用拡大で給料が少ない段階から保険料を支払ったとしても、それは結果的に、生涯にわたる所得を引き上げることになる。だから、そうした壁を低くしたり、無くし、労働時間を気にせず、壁を突き抜けて働ける仕組みを広げていくことが大事だ。

── 最低賃金の引き上げについては。

■できるだけ早い時期に、全国加重平均が1000円を超すように、今、頑張っている。最低賃金は強制賃金であるから、新型コロナで経済が厳しい時に、中小企業にとっては非常に重い負担であったことも十分に認識している。だから、中小企業が生産性を上げ、価格転嫁をできるような支援をしながら、最低賃金の引き上げが可能になる条件整備をしっかりしていく。


 ■人物略歴

ごとう・しげゆき

 1955年東京都出身。80年大蔵省(現財務省)入省、2000年長野4区から立候補し、衆議院議員に初当選。21年厚生労働大臣、22年から現職。


週刊エコノミスト2023年2月7日号掲載

賃上げサバイバル インタビュー 後藤茂之・経済再生担当大臣 賃上げは生産性向上と一体 非正規雇用の正社員化を支援

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