インタビュー「業務は経営コンサルから歯医者の紹介まで」小野瀬貴久・EYベトナム日系企業担当インドシナ統括
日本を飛び出し、国際会計事務所のEY(アーンスト・アンド・ヤング)ベトナムの「パートナー」(法人に出資する幹部の役職)を務める小野瀬貴久さんに、ベトナムの現状について聞いた。
── どのような仕事をしているのですか。
■元々、日本で公認会計士の試験に合格し、監査法人で働いていました。その後、EYジャカルタ事務所勤務を経て、2011年からベトナムで働いています。会計のバックグラウンドを使わない業務も多く、仕事のフィールドはぐっと広がりました。ホーチミン日本商工会議所の副会頭も務めています。何よりうれしいのは皆さんに感謝されることが多いことですね。仕事は楽しく、やりがいを感じています。
── 日本の会計士の仕事とは大きく違うのですね。
■会計と全く関係ない「よろず相談」もしていますよ。「良い歯医者を知らないか」と尋ねられたり、珍しいものでは「従業員が徴兵されてしまったが、どうしたらいい」と相談を受けたり。おせっかいなくらいサポートしています。
── ベトナムへの日系企業の進出状況は?
■一昔前は製造業が中心でした。ベトナムに工場を建て、生産をして、日本市場に送るというものです。しかし最近は、ベトナムの国内市場を取りにいこうという動きが強くなっています。大手小売りやサービス業など、いろいろな業種の企業が進出しています。
人材確保が難しくなってきたという話も聞きます。従業員が賃金上昇を求めて転職するという動きは日本よりもずっと多く、企業はいかに残ってもらえるかを考えながら経営をしています。「カンパニートリップ」という慰安旅行のようなものがとても大事で、それをしないと辞めてしまう従業員がいるほどです。経営者の方と「昭和のノリで経営するのは大事だ」という話をよくしています。
コンサルとして
── 進出における課題は?
■法整備がまだまだ不十分です。ただ、皆さんが思われるほど不透明な部分はなく、政府も意見を聞いてくれると感じています。例えば、個人所得税について、日本から駐在する社員が4月に着任しても、着任前の1〜3月分も課税対象となるという問題がありました。これは商議所などによるベトナム政府への意見が通り、現在は着任日からに修正されました。
一方で、工場や倉庫などを建設する際の耐火基準が明確でなく、耐火素材の認定が取りにくかったり、外国人の就労許可証が取りにくかったりと、改善が必要なものもあります。
── 税務調査の状況は?
■当局による「アグレッシブ」な税務調査が増えています。欧米企業が税務調査による支出がないように調査に備える体制を作っているのに対して、日系企業は甘い所があると感じています。日本人は性善説なんですね。「脱税していない」と安心してしまっていますが、税務調査では、それを文書できちんと説明するところまで求められます。コンサルとしては「そうした部分を詰めていこう」という話を、いつもしています。
(聞き手=安藤大介・編集部)
■人物略歴
おのせ・たかひさ
1975年神奈川県生まれ。98年日本大学国際関係学部卒業。日本での監査法人勤務などを経て、2006年EYジャカルタ事務所入所。11年からEYベトナムで勤務。
週刊エコノミスト2023年2月21日号掲載
税理士・会計士 インタビュー 小野瀬貴久・EYベトナム日系企業担当インドシナ統括 私のベトナム「よろず相談」奮闘記