ぜい弱だった司法権の独立を守り、民主化を勧めた田中耕太郎 井上寿一
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近年において憲法改正の機運が高まったのは、安倍(晋三)内閣の頃だろう。対する今はどうか。岸田文雄首相兼自民党総裁は、派閥(宏池会)の長である。宏池会の創始者池田勇人は、首相在任中、憲法改正を棚上げして高度経済成長路線を築いたことで知られる。岸田首相もそうかといえば、違うようにみえる。「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安保3文書の改定の次は改憲となれば、憲法秩序は大きく変わることになる。
牧原出著『田中耕太郎 闘う司法の確立者、世界法の探求者』(中公新書、1034円)によれば、戦後憲法秩序を支えた立法・司法・行政の三権すべてに直接的に関与したのが田中耕太郎である。戦前、東京帝国大学の商法の教授だった田中は、戦後、文部大臣あるいは参議院議員の文部委員長の立場から新憲法に合わせた教育改革を推進した。次いで最高裁判所長官の座に就く。
当時、砂川事件(米軍基地反対運動)をめぐって、下級審が米軍駐留を違憲との判断を示した。対する田中が率いる最高裁は、実質合憲とした。憲法前文および第9条と日米安保条約を同時に容認することで、田中の最高裁は政治問題から司法権の独立を守ろうとした。
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週刊エコノミスト
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