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資源・エネルギー エネルギー

実は“空き”だらけの送電網 再エネは増設なしで接続可能だった 内藤克彦

電力ひっ迫なのに、電力会社は再エネの送電停止を求める出力制御を行っている(徳島県小松島市の大型太陽光発電施設)
電力ひっ迫なのに、電力会社は再エネの送電停止を求める出力制御を行っている(徳島県小松島市の大型太陽光発電施設)

 電力のひっ迫が指摘されているが、送電線は余裕がある。米国型運用で大量の再エネを接続するべきだ。

問題は送電容量の公平な割り振り方法

 日本は2012年に導入した再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)により、再エネが急激に増加した。経済産業省によると、20年度の再エネ設備容量は132ギガワット(世界6位)、全発電に占める比率は約18%にも及ぶ。

 この大規模な再エネで常に議論されてきたのが、送電網の「空き容量」問題だ。「送電線は既存の火力発電などの電気を送るのに精いっぱいで、再エネのための余力が少ない」という話は、昔から政府・電力業界から説明され続け、電力会社による再エネ接続拒否、再エネ発電抑制などが多く行われてきた。このため、最近の政府審議会でも、数十兆円にも上る大規模な送電線増強計画が決定されている。

 だが、東京電力や地球環境戦略研究機関(IGES)、京都大学などの研究によって、送電の運用方法を工夫すれば、30年ごろまでは、既存の送電網でも大規模な増強なしに、拡大する再エネを送電網に接続できることが分かってきた。

 11年3月の東日本大震災前まで、日本の天然ガス火力発電の設備容量は、石炭火力発電や原子力発電の倍程度の規模を持っていた。これは電力会社が大気汚染問題に対処するため、天然ガス火力を多数導入したためだ。並行して原発も増加させたが、原発は完成まで時間がかかるうえ、数も短期間で多くは増やせない。大気汚染問題が収まる頃からは、コストが圧倒的に安い石炭火力も徐々に増やしてきた。そして、これらの倍の設備量を持つ天然ガス火力の設備利用率を50%程度にとどめ、石炭火力と原発を7~8割の高い利用率で運転してきた。

 だから、東日本大震災が起きて原発が停止しても、何とか電力需給バランスを保つことができた。天然ガス火力の設備利用率は、震災後はフル稼働となっている。遊んでいた天然ガス火力の稼働増で、原発停止に対応できた。また、日本の電力需要も07年ごろをピークに徐々に減少傾向にあったことも忘れてはならない。震災後は省エネ対策も一段と進み、電力需要はピーク時の1割以上も減少した。

 現在は、電力需要ピークの時代に多数建設された火力発電所に加え、需要の約1割を賄うほどに拡大した再エネがあるので、天然ガス価格高騰の問題はあるものの、日本の発電設備容量自体、異常なまでに深刻に足りないという状況ではないと考えている。

原発、火力の「先着優先」

 欧米では日本より多くの再エネが既に既存の送電網に組み込まれているのに、なぜ日本で「空き容量」問題が発生するのか。実は、米国では25年以上前、欧州でも10年以上前に、同じような議論があった。欧米でも旧来の垂直統合の電気事業者が既得権温存のために、送電線への接続や料金で新規参入の再エネなど分散型電源を排除しようとした時代があった。これを解決し、公平な送電線利用を確保するために行われたのが、米国や欧州の電力改革であった。日本では電力改革というと、電力小売り自由化や形式的な発送電分離が注目されているが、電力改革とは、再エネなどの新規参入者に対して、公平な送電線利用をさせることが主な目的だ。

 送電線の「空き容量」という概念自体に、火力や原発など既存の発電施設を優先的に使う「先着優先」の概念が含まれている。米国で約25年前に行われた電力改革は、当時、立地し始めた分散型電源に対応するため、既存・新設を問わず、公平に送電使用権を与えることを目的としたものだった。問題の所在は、送電線の容量の大きさではなく、どうすれば公平に容量を割り振れるかという点だ。

 図は、東京電力の千葉県と東京都心を結ぶ幹線送電線を流れる電力の18年8月の推移だ。8月は夏の暑さにより、年間で最も電力需要が高い。その8月でも一瞬だけ送電線の運用容量いっぱいまで送電線が使われるが、ほとんどの期間は送電線に余裕がある。これを年間で見ると、約99%の時間は送電線に余裕が出ている。しかし、現在、日本でも検討が始まった「コネクト&マネージ」(空き容量利用方法)は、最悪想定(送電線を流れる電流の最大時)に基づく、「空き容量」型の送電線運用であり、これだと最も送電線が混雑する時には空きがないので、「空き容量ゼロ」で、新規電源は送電網を増強しなければ接続不可との結論になってしまう。

 電力改革後の米国の運用では、例えば、図で送電容量が目いっぱいになる数時間は、千葉側の最も高価格の発電所を出力抑制し、代替電源の電気を別送電ルートから流すということを行う。このように、リアルタイムで電気が流れる量を算出しつつ、送電の割り振りをしている。この方式だと、発電所がどう接続されていようと、需要に見合った発電施設を、公平に価格順に選択したうえで、送電側に対し、必要最小限の出力抑制を最小限の時間で、かつ最も低コストで行える。

再エネの接続は可能

 前述の日本の「コネクト&マネージ」は、リアルタイムの電力計算が困難であった時代の産物だ。米国型の運用方法が可能となったのは、送電網全体で毎時リアルタイムの電力計算を可能とするIT技術の発達があった。日本以外の先進国は、米国に追随して、ほぼ全てこのような送電運用に改善されている。日本でもすでに東京電力が、研究と実証実験を通じて、米国方式を基本とした運用方法を提案している。筆者は、IGESの協力を得て、日本の現在の送電網に30年までに建設済みの数カ所の電力会社間連系線増強を加えて、政府目標の30年・40%弱の再エネを導入した時に、米国型送電運用を行うとどうなるかをシミュレーションしてみた。米国の電力会社が実際に使っている運用ソフトを用いて、沖縄県を除く日本の上位基幹送電網2系統の超高圧送電線を対象に、各電力会社が公表している電力潮流(実際の電気の流れ)データ、気象データなどを用いた。原発は経済産業省の稼働想定で計算した。

 その結果、再エネの全国平均の年間出力抑制(送電線容量がいっぱいになるので出力を制限する)は、最大出力100%に対して、洋上風力3.3%、陸上風力2.6%、太陽光発電1.8%と非常にわずかな結果となった。これは再エネの経済性を損ねない範囲の水準だ。つまり、運用方法さえ変えれば、少なくとも30年目標ぐらいまでの再エネ設備容量は、大規模な送電線増強をせずとも、送電網に十分接続可能であり、政府や電力業界が長年主張してきた「空き容量」問題はクリアできるということだ。

 送電管理を効率的に改善し、電気代を上昇させる送電線への投資を必要最小限とする努力が必要だと考える。

(内藤克彦・京都大学特任教授)


週刊エコノミスト2023年2月28日号掲載

全国の送電網は「空き」だらけ 莫大な再エネの接続は可能=内藤克彦

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