経済・企業 消費者保護
「ステマ天国」日本 消費者庁が今秋までに規制発動 木村祐作
インスタグラムやツイッターなどで横行している「ステルスマーケティング」。ついに消費者庁が規制に乗り出した。
インフルエンサーの4割がステマを依頼された経験あり
sタレントやインフルエンサー(世の中に影響を与える人)などが企業から謝礼をもらっていながら、広告とわからないように商品を宣伝する手法を「ステルスマーケティング」(通称ステマ)と呼ぶ。この手法はネットやSNS(ネット交流サービス)などで数多く見られる。クチコミサイトの“やらせ”や、EC(電子商取引)ショッピングサイトの“サクラレビュー”などは、その典型例だ。ステマが横行しているのは、企業が自ら広告するよりも、第三者が評価していると消費者に思わせた方が、購入してもらいやすいからだ。
約10年前、グルメサイト「食べログ」を舞台としたステマ事件を覚えている方も多いだろう。クチコミ代行業者が、費用を支払った多数の飲食店に対し、高評価を付けた事件だ。直近では某テレビ局のアナウンサーが、都内の美容院で無料サービスを受け、その美容院のSNS上の宣伝に一役買ったというステマ疑惑が報じられている。
広告業界のある関係者は「数万人規模のフォロワーを抱えるインフルエンサーを集めている仲介業者に依頼してステマを行えば、その商品やサービスの売り上げが急激に伸びる。大手企業も手を出している」と、ステマが当たり前のように行われている現状を説明する。
「レビュー」を金券で買う
近年、販売会社が広告代理店に依頼して、インフルエンサーに商品を宣伝してもらう手法が一般化している。だが、その中には不正レビューの依頼も混在している。例えば、広告代理店がツイッターやインスタグラムで「#Amazonレビュー #拡散希望」といったハッシュタグを付けて、「星4と星5も募集 返金(ギフト券)最大2000円報酬付き」などと呼びかけるケースだ。これはアマゾンのサイトで高評価のレビューを行えば、2000円分のギフト券を贈呈するという意味だ。
「まともな広告代理店は危なくてステマに手を出さないはずだが、現状は化粧品や飲料、雑貨などでステマが行われている」(前述の広告業界関係者)という。
消費者庁の調査でも「インフルエンサーの投稿を確認したところ、100件のうち20件程度の割合でステマと思われる投稿があった」との広告代理店の話を報告している。また、同庁が行ったインフルエンサー300人を対象としたアンケート調査では、41%が広告主からステマを依頼されたことがあると回答し、うち45%が依頼を引き受けたと答えている(図)。
多くの先進国はステマに対し、厳しい規制を敷いている。経済協力開発機構(OECD)加盟国の名目GDP上位9カ国のうち、規制がないのは日本のみ。このため、グローバル企業が日本市場をターゲットにステマを仕掛ける動きもあり、日本は「ステマの草刈り場」(消費者庁表示対策課)にもなっている。
消費者庁がようやく動く
こうした状況が続く中、国もようやく重い腰を上げた。昨年9月9日、河野太郎消費者担当相はステマ対策のために、消費者庁に検討会を立ち上げると発表。「ステルスマーケティングに関する検討会」(座長・中川丈久神戸大教授)が設置され、12月28日に報告書がとりまとめられた。その中で、景品表示法の「指定告示制度」にステマを追加することで対策を行うことが盛り込まれた。指定告示制度とは、例えば、今回のケースだと、ステマの定義を法律(景品表示法)の中に記す(告示)ことで、規制・取り締まりができるようにする。
景品表示法では、商品やサービスなどに関して、それが実際よりも著しく優良、または有利であるかのように一般消費者を誤認させる表示を禁止している。「がんを予防する」といった健康食品の行き過ぎた効果や、実績のない「通常価格」から「〇万円引きでご提供」などと比較する二重価格などがその代表例だ。しかし、広告なのに、広告と悟られないように宣伝する行為自体は、これまで法律上の規定がなく、取り締まりができなかった。
そこで、課徴金の適用がなく、柔軟な運用ができる指定告示制度に、ステマを位置づけることとした。ステマと認定された場合は、消費者庁が景品表示法の措置命令を出せるようにした。措置命令が出ると、企業名や違反内容が公表され、社会的な制裁を受ける。
前述の検討会報告書では、ステマの告示(案)について次のように提言している。
「事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」。分かりやすくいえば、①「企業の広告であると認められる」②「一般消費者が広告であると判断できない」の二つの要件を満たす場合は、ステマに該当し、行政処分の対象となる。
従業員なりすまし投稿
また、消費者庁は告示の運用基準も策定する方針だ。ステマに該当する事例や問題とならない事例を整理する。
同庁によると、SNS上のキャンペーンに応募するために一般消費者が書き込む表示、購入者が自主的に書き込むネットショッピングサイトのレビューなどはステマに当たらない。企業からサンプルを受け取った一般消費者が、自主的にSNSに投稿する場合も問題にならないという。
一方で、企業がインフルエンサーに依頼して行わせるSNSの投稿、ネットショッピングサイトのサクラレビューは、ステマに該当する。企業の従業員が一般消費者になりすまして行う場合も問題となる。ただし、企業が依頼して表示させた場合であっても、「広告」「宣伝」「PR」と分かりやすく表示すれば、ステマとならない。分かりやすいかどうかは、文字のサイズ・色も含め、「一般消費者がどう感じるか」(表示対策課)の視点で、消費者庁が判断する。「インフルエンサーを活用したプロモーション自体を規制するものではない」(同)という。
今後、消費者庁は3月までに告示を制定する予定。遅くても今秋には施行される見通しだ。今回の規制による効果は未知数だが、中川検討会座長は「告示を作って“常識”を広めていく。半分くらいは良くなると思う」と述べている。
こうした国の動きを背景に、すでに食品業界ではステマから手を引く企業が出始めるなど、効果が出始めている。一方、ステマかどうか明確でない“グレーゾーン”については、施行後も様子見が続くとの見方もある。規制の実効性を上げるためには、消費者庁がどうグレーゾーンに切り込めるかが鍵になりそうだ。
(木村祐作・フリーライター)
週刊エコノミスト2023年2月28日号掲載
ステルスマーケティングを規制 「ステマ天国」日本にメス=木村祐作