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国際・政治 ウクライナ侵攻1年

ウクライナ支援で疲弊する西側諸国、台頭するグローバルサウス(編集部)

 ロシアのウクライナ侵攻から1年。世界の経済秩序は大きく変わろうとしている。

>>特集「ウクライナ侵攻1年」はこちら

 2022年2月24日のロシアによるウクライナの侵攻から1年。世界のパワーバランスが大きく変わろうとしている。その象徴となるのが、第二次世界大戦以来、再び戦場となった欧州と西側諸国の疲弊だ。

英国製チャレンジャー2 Bloomberg
英国製チャレンジャー2 Bloomberg
ドイツ製レオパルト2 Bloomberg
ドイツ製レオパルト2 Bloomberg
ロシアの主力戦車T-72 Bloomberg
ロシアの主力戦車T-72 Bloomberg

 今年の1月に入って、英国が同国製主力戦車「チャレンジャー2」の供与を表明したのを皮切りに、米国は最新鋭の主力戦車「M1エーブラムス」を、ドイツは欧州で広く保有されている自国製主力戦車「レオパルト2」を、ウクライナへ供与すると表明した。

独ソ戦以来の戦車戦

 それに対し2月2日、ロシアのプーチン大統領は旧ソ連がナチス・ドイツに勝利した「スターリングラード攻防戦」終結80年式典で、「我々は再びドイツの戦車に脅かされている」と発言した。

 13日にはウクライナ東部の戦略的要衝バフムトが露軍の激しい攻撃を受けた。新たな大規模攻撃の前哨戦とも受け止められ、欧州では今後、さながら独ソ戦(1941〜45年)以来の大戦車戦が勃発してもおかしくない状況だ。独ソ戦は、旧ソ連の工業都市スターリングラードにおける半年に及ぶ市街戦で200万人以上が死傷した。43年7月から8月に、ロシア・ウクライナ国境で行われた「クルスクの戦い」はドイツ2800両、ソ連3000両の戦車が激突した史上最大の戦車戦だ。

 防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長は、今後の戦局について、「ウクライナがクリミア半島の付け根のあたりまでを奪還するのは不可能ではない」と語る。そうなると、ロシアはクリミア半島の防御のためにドンバス地方の兵力を割かなければならなくなる。しかし、ロシアには資源も資金もある。仮に、西側の主力戦車を得たウクライナが併合した4州を奪還しても、ロシアは空爆を続けられる。「プーチン氏の気持ちが変わらない限り戦争は続く」。一方で、ウクライナにとって、降伏はロシアに統治を委ねることを意味し、絶対に認められない。「戦争が終わるのは、両国が『もう戦争したくない』と思うか、もしくは『互いに何かを諦め、停戦した方がよい』と考えた時。ただし、そこに至るまでには相当戦い続けることが必要になる」(高橋氏)。「どんなに短くても3〜5年、場合によっては10年続いてもおかしくない」

 ロシアの軍事情勢に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠専任講師も「長期化する中では、軍隊同士のぶつかり合いで優位に立った方の論理が通るという、非常に古典的な戦争になる」と見る。戦争が長引けば長引くほど、そして兵器が高度化するほど、より兵士や住民の命が奪われることになる。

 なぜ、戦争激化のリスクを承知しながら、西側諸国は戦車の供与を決めたのか。安倍政権を首相補佐官兼秘書官として支え、岸田政権でも内閣官房参与を務める今井尚哉・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は、国内有権者に顔を向けたポピュリズムが根底にあると語る。「弱腰という言葉に政治家は弱い。国内に強気を見せると、もう後に戻れなくなる」

 その典型が首相としての経験が浅く、世論に押されたドイツのショルツ首相だ。元外交官で終戦時の東条茂徳外相を祖父に持つ、東郷和彦・静岡県立大学グローバル地域センター客員教授も「(旧東ドイツ出身でロシアをよく知る前首相の)メルケル氏だったら違う判断をしただろう。ドイツがロシアを見切ったのは大きい」と話す。

インド、仲介に意欲

西側諸国とグローバルサウスの仲介役として存在感を高めるインドのモディ首相(前列左、2022年6月、ドイツ南部エルマウで開催のG7サミットにて) Bloombreg
西側諸国とグローバルサウスの仲介役として存在感を高めるインドのモディ首相(前列左、2022年6月、ドイツ南部エルマウで開催のG7サミットにて) Bloombreg

 G7(主要7カ国)を中心とした西側先進国が戦争で消耗する中、存在感を高めているのが、中国やインド、トルコといった新興国・発展途上国からなる「グローバルサウス」だ。今年にも人口が世界一となるインドのように膨大な数の生産年齢人口と、豊富な天然資源を武器に世界経済の主役の座を、西側諸国から奪いつつある。

 これらの国々は、経済のグローバル化の恩恵を受けて、成長してきた。インドではデジタル分野の成長も目覚ましく、「シリコンバレーよりベンガルールだ」とまで言われるようになった。日本総合研究所会長の寺島実郎氏は、「彼らが放っているメッセージは、『世界を単純に二極に分断するな』ということだ」と説明する。実際、インドのモディ首相は、西側諸国とグローバルサウスの橋渡し役を本気で務めようとしているという。

戦争でも経済関係は継続

 高橋氏は、「この戦争の最も興味深いことは、戦争が始まってからも、米露外交は続いているし、世界的な経済関係が完全に途切れたわけではない」ことだと見る。今井氏も「中国の習近平主席と米バイデン大統領は、ほぼ毎週電話している」と明かす。だから、日本が今こそ担うべき役割は、ロシアとウクライナの停戦を粘り強く促し、世界経済を分断の危機から救うことにあると強調する。また、戦争の悲惨さを最も知る国としての責務でもある。

 今回の特集では、ウクライナ侵攻を奇貨として、ロシアでビジネスを拡大する中国企業、米国や中国の軍事ベンチャー、開発が加速する再生可能エネルギーなども取り上げた。経済安全保障に詳しいPwCのピヴェット久美子シニアマネジャーは「当面はリスクを予測し、回避しつつ、いかに取引を続けていくかが企業に求められる」と話す。日本と日本企業は、旧来の価値観に捉われることなく、したたかに外交・経済活動を続けていくことが必要とされる。

(荒木涼子・編集部)

(白鳥達哉・編集部)


週刊エコノミスト2023年2月28日号掲載

ウクライナ侵攻1年 支援で疲弊する西側諸国 主役は「グローバルサウス」に=荒木涼子/白鳥達哉

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