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教養・歴史 エコノミスト賞受賞者が考える 日本経済の処方箋

遅きに失した日銀の方針転換 異次元緩和の「総括的検証」を 早川英男

日本経済の処方箋/10 低金利が続いた金融環境が一変し、日銀は国債市場の機能不全や国債購入量の急増といった副作用の増大に耐え切れなくなっている。

 昨年12月の金融政策決定会合において、日銀は長期金利の変動幅を従来のゼロ±0.25%からゼロ±0.5%ヘと拡大することを決定し、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の弾力化を進めた。2016年9月に「総括的検証」を踏まえて導入されたYCCは、金融緩和効果を維持しつつ、国債購入額を抑制することで政策の持続性を高めるという意味で、持久戦向きの優れた政策手法であった。

「総括的検証」のエッセンスは、インフレ期待の変化には時間がかかる、すなわち「異次元緩和」は持久戦にならざるを得ないと認めたことにあった。確かにYCCには、海外(特に米国)金利が大幅に上昇すれば、円安を増幅するという弱点がもともとあったが、長い間それが現実化する環境にはなかった。

 ところが昨年になって環境は大きく変わった。3月に利上げを開始した時点で米連邦準備制度理事会(FRB)は完全に、インフレに対してビハインド・ザ・カーブ(後手に回ること)に陥っていたため、急ピッチの利上げが必至とみられたからだ。このため、筆者は昨年春からYCCの運用弾力化を訴えてきた。その後、実際に急激な円安が進み、エネルギー・食料価格の上昇とも相まって「悪い円安」への批判が高まったが、日銀は「長期金利の変動幅拡大は利上げを意味する」などとして、これをかたくなに拒んできた。

 しかし、国債市場の機能不全、指し値オペに伴う国債購入量の急増といった副作用の増大に耐え切れず、年末に至って方針を転換したということだろう。正しい選択だとは思うが、遅きに失したうえ、市場とのコミュニケーションに大きな課題を残したと言わざるを得ない。実験的な金融政策は環境の変化に応じて柔軟に変更する必要があることを再確認する展開であった。

崩れ去った「低金利」の前提

 今年の春闘賃上げ率は3%弱と、1990年代末の金融危機以来、四半世紀ぶりの高さとなることが予想されている。それでも、1.8%程度の定期昇給部分を除くと、実質的な賃上げは1%強であるため、日銀が物価目標とする2%インフレの安定的な持続にはやや力不足である。今年中に日銀が金融緩和政策を抜本的に転換することはないだろう。

 しかし、多くの市場参加者が予想するように、4月に退任が予定される黒田東彦総裁の後を継ぐ日銀新執行部の下で、YCCのさらなる弾力化(または撤廃)といった「異次元緩和」の修正が行われる可能性は排除できない。その場合、昨年末の反省に立って、日銀の意図を市場に十分に理解してもらえるよう、適切な手順を踏んで修正を進めることが重要である。

 その際、最初に取り組むべきは、13年1月に「異次元緩和」に先立って政府と日銀の間で取り交わされた共同声明(いわゆるアコード)を見直すことだと思う。このアコードには、①2%の物価目標をできるだけ早期に達成する(インフレ目標)ことだけでなく、②経済構造の変革により、日本の競争力・成長力を強化すること(成長戦略)、③政策運営への信認を確保するため、持続可能な財政構造を確立すること(財政健全化)──の3点がうたわれている。

 だが現実には、2%目標ばかりが強調される一方、成長戦略や財政健全化の重要性は(とりわけ政治家の間では)すっかり忘れ去られているからである。さらに重要なのは、この三つの目標は独立ではなく、相互に密接に関連していることである。2%の物価目標達成には、日本経済の中期的な成長力が高まる必要があ…

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週刊エコノミスト

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