教養・歴史著者に聞く

スローフードの紹介者が今度はシチリアの反マフィア活動に脚光 藤原秀行

『シチリアの奇跡 マフィアからエシカルへ』

著者 島村菜津さん(ノンフィクション作家)

過去と決別し有機農業盛んに

 地中海に浮かぶイタリアのシチリア島は映画「ゴッドファーザー」の舞台として知られ、“マフィアの島”のイメージが強い。しかし、重苦しい過去と決別しようとする人々の奮闘で今は有機農業の畑が広がり、SDGs(持続可能な開発目標)で重視される環境負荷低減などを図る「エシカル(倫理的)消費」の最前線へ姿を変えようとしているという。本書はかの地に魅せられ、現地に足しげく通ったノンフィクション作家が驚きの実態を紹介している。

 著者とイタリアの結び付きはイタリア美術史を専攻していた学生当時に始まった。20年以上前、土地の伝統的な食材や食文化が持つ価値を見直そうとするイタリアの「スローフード運動」を日本に初めて本格的に紹介したことでも知られる。

「風光明媚(めいび)で異邦人に優しいシチリア島はささくれだった私の心をいつも癒やしてくれました。島に恩返ししたいという気持ちもあり、反マフィア活動の取材を始めました」

 島のマフィアは、選挙票などを通じて中央政府と地元経済に寄生して利益を吸い上げ、盾突く者を容赦なく攻撃した。1861年のイタリア統一以後、マフィアと闘って殉職した裁判官や新聞記者、企業家、労働運動家は519人にも上る。

「マフィアは島民の経済活動に深く食い込んできます。自分たちの悪事が明るみに出れば偽の容疑者を仕立て上げるなど情報操作にも長(た)けており、非常にやっかいな存在です」

 しかし、大量のマフィア関係者の罪を法廷で暴いた「大裁判」で、中心的存在だった2人の判事が1992年に爆殺されるという衝撃的な事件を契機に風向きが変わった。政府が掃討を強化し、シチリアのマフィアは勢力縮小を余儀なくされた。

「最近は島で物騒な事件はめったに起きません。それでも『シチリア人といえばマフィア』とい…

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週刊エコノミスト

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