中国が不動産部門への支援を強化しながら大幅回復は期待していない事情 谷村真
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中国の不動産開発会社への規制は想定以上の抑制効果となり、中国経済の成長率を大きく押し下げた。
「三つのレッドライン」見直しへ
「不動産部門は引き続き経済の柱だ」──。劉鶴中国副首相は、1月にスイスで開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)でこう語り、同部門への支援を強化することを強調。時を同じくして当局は不動産開発会社の資金調達に関する規制、とりわけ「三つのレッドライン(三道紅線)」と呼ばれる規制を緩和する方針を示した。
劉副首相の発言は、不動産部門の安定化に向けて政府として断固として対処することを印象付けたかったのだろう。中国の2022年の実質GDP(国内総生産)成長率は3.0%と歴史的な低水準になったが、主な要因はゼロコロナ政策による経済活動への制約と不動産部門の停滞である。不動産部門は間接的な影響を含めると経済全体の約3割を占め、一部試算によると不動産部門は22年の成長率を1.5ポイント押し下げたとされる。
23年の中国経済を見通すと、ゼロコロナ政策の転換が想定よりも早く進んだため、サービス消費を中心に景気回復が進むという楽観的な見方が主流となっている。ただ、「経済の柱」である不動産部門がどの程度回復するかは、成長率への影響だけではなく、土地収入に依存する地方政府の財政にとっても重要な問題である。
恒大集団などデフォルト
それではなぜ、不動産部門の停滞が生じているのかを明らかにしたい。新型コロナウイルス感染拡大後の金融緩和の影響を受け、20年後半から不動産部門は大きく伸長した。しかし、当局は不動産市場の過熱を警戒し、20年8月に不動産開発向け融資を抑制するための財務指針で「三道紅線」を提示。12月には不動産融資の総量規制などの融資抑制策を強化した。
「三道紅線」は、①総資産に対する負債比率が70%以下、②自己資本に対する負債比率が100%以下、③短期負債を上回る現金の保有──の三つの財務指標について、未達の指標の数に応じて銀行借り入れの伸び率を抑制するものだ。こうした中、「三道紅線」に抵触していた不動産大手である恒大集団の財務状況に不安が広がり、21年12月には猶予期限が到来した一部外貨建て債券でデフォルト(債務不履行)が発生した。
同様に、多数の大手不動産開発会社もデフォルトに陥る異常事態となり、不動産開発会社の経営難はゼロコロナ政策で冷え込んでいた需要をさらに下押しすることになった。その背景には、中国独自のマンション販売事情がある。中国では完成前に販売する方式が一般的となってきており、こうした完成前販売比率は05年で6割未満だったが、近年は9割に達している。
しかし、資金難に陥った不動産開発会社の物件で引き渡しが遅延する事例が増え、購入者が住宅ローンの支払い拒否を宣言する事態に至った。この結果、契約通りマンションの引き渡しが行われないのでは、との不安感から購入をためらう人が増え、供給不安が需要を萎縮させたのである。
地方の土地収入23%減
図1はごく簡略化した図式だが、不動産開発会社が16~21年、不動産販売と新規融資を元手に、そのうち7~8割を不動産開発投資に充てていたことを示しているが、22年に販売が大きく減少したため、開発投資の資金が不足して投資が減少した。実際には債券発行による資金調達もあるが、これも22年に大きく減少したとみられる。
当局は、引き渡しが遅れている物件の完成を急がせることによって供給不安を和らげ、潜在的な住宅購入者の信頼感を回復させることを急いだ。これまで発表された対策は、不動産開発会社の資金繰り支援が中心で…
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週刊エコノミスト
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