JR4社+大手私鉄14社の財務徹底解剖 松田遼
利益水準はまだ低いものの、行動制限の緩和やインバウンドの復活など明るい兆しが見え始めた。
コロナ禍の影響を大きく受けた業界の一つが鉄道業界だ。コロナ禍におけるリモートワーク(在宅勤務)の普及と旅行などの自粛、行動制限による鉄道事業への影響にとどまらない。鉄道大手グループでは傘下のホテル、百貨店事業なども大きなダメージを受けた。
しかし、過去3年に及ぶコロナ禍の影響もようやく薄まり、国民の暮らしは徐々に平常に戻ってきている。足元では、鉄道事業にも乗客が戻りつつある。
そこで、2023年3月期において、コロナ禍以前の水準(19年3月期)と比較して、大手鉄道グループはどこまで業績を戻しているのかを検証する。ここでは、JR4社(東日本、西日本、東海、九州)と大手私鉄14社の合計18社を取り上げている。
JR4社の純利益はコロナ前の3割
まず、18社の今期決算(23年3月期)の進捗(しんちょく)を見てみよう(表、拡大はこちら)。
第3四半期決算(4~12月)までの売り上げ(営業収益)は9兆4830億円、前年同期比27.5%の増収で、通期予想に対する進捗率は73%と順調だ。JR東海の77%を筆頭に、ほぼ全社が7割の水準に達している
売り上げ以上に好調なのが、純利益の進捗である。第3四半期までの純利益実績が、すでに通期予想を超えている鉄道会社が12社もある。JR3社(東日本、西日本、東海)および私鉄9社(東武鉄道、相鉄ホールディングス〈HD〉、東急、京浜急行電鉄、京王電鉄、近鉄グループHD、阪急阪神HD、南海電気鉄道、京阪HD)だ。今期業績予想の達成に向けた進捗は好調のようである。それ以外も第3四半期時点で、8割以上に達している。
だが、23年3月期決算では通期純利益予想の達成が見込まれるものの、ほとんどの鉄道会社は今期予想において、従来水準(コロナ前の19年3月期)までの業績回復を見込んでいない(図)。まだまだ、コロナ禍以前の事業環境に戻っていないというのが各社の想定であろう。
鉄道輸送において通勤・通学需要など比較的短距離を主体とする私鉄14社の今期売り上げ予想は、ほぼ従来水準(97%)まで戻しているが、純利益は約8割までの回復にとどまる。
また、観光など長距離鉄道需要の比重が大きい、JR4社においては、業績回復はまだまだ途上だ。今期売り上げ予想は従来水準の約8割に回復する一方で、純利益は約3割の水準にとどまる。利益回復の道のりはまだ遠い(表)。
インバウンドに期待
個社ごとに見ていこう。
私鉄14社で今期の売り上げ予想が従来水準(19年3月期)まで戻しているのは、京成電鉄(101%)、西日本鉄道(125%)、近鉄(129%)、阪急阪神(123%)および南海(100%)の5社だ。90%台が、東武(96%)、相鉄(95%)の2社。残る7社は、70~80%台である。
一方、売り上げと比較すると、今期純利益予想は従来水準の30%から200%超までと、ばらつきがある。100%超は、西武HD(174%)、西鉄(246%)、近鉄(211%)の3社だ。
今期の売り上げと純利益の予想の両方で、従来水準を上回ると予想しているのは、西鉄と近鉄の2社のみである。業界全体としてまだまだ完全復調とはいえない。しかも、近鉄の場合は、業績好調な近鉄エクスプレスの子会社化が、業績回復に大きく寄与している。本業が回復したわけではないのだ。
また、京成のように今期売り上げは、従来水準まで戻すことが予想される一方で、純利益の回復は67%にとどまる例もある。
明るい材料は、政府の水際対策が緩和され、インバウンド(訪日客)が順調に回復の兆しを見せていることだ。加えて、国内の行動制限も5月以降、大幅に緩和される見通しで、人々の行動範囲が広がる。新年度(24年3月期)以降、多くの鉄道大手会社がコロナ禍の影響から脱し、業績が従来水準まで回復することが期待される。
(松田遼・金融アナリスト)
週刊エコノミスト2023年3月14日号掲載
再始動する鉄道 大手18社決算 純利益水準は半分程度でも売り上げはコロナ前回復へ=松田遼