不可解なオウンゴール? 気球撃墜で揺れる米中関係 河津啓介
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北米大陸を横断するように領空侵犯した中国の気球を、バイデン米政権は「偵察目的」と見なしてF22戦闘機によって撃墜した。中国政府は「気象研究などを目的とする民生用が誤って米国領空に入った」と反論。ブリンケン国務長官の訪中が延期され、相互不信の深さが浮き彫りになった。
「衛星で偵察できるのに、なぜ気球を使う必要があるのか」。複数の中国メディアがこうした軍事評論家の見解を伝え、米国の主張に疑問を投げかけた。
だが、気球の軍事的役割について、中国では再評価されている。共産党中央軍事委員会の機関紙『解放軍報』の記事(2021年12月24日)は、衛星と異なる偵察気球の利点として、目的地に長時間滞空できること、広範囲かつ高精度の偵察が可能でしかも運用コストが安いことなどを挙げた。
習近平指導部は民生技術と軍事技術を一体的に発展させる「軍民融合」を掲げる。気球による偵察システムもその一つと位置づけられ、政府や軍と関係が深い企業や研究機関が開発にあたっていた。
中国自身も他国の偵察気球に警戒を強めており、19年9月には、中国軍の戦闘機が領空に飛来した気球を撃墜する映像が国内で公表されていた。
謎が残るのは気球を派遣した中国の意図だ。経済低迷に直面する習指導部は米国との関係改善を模索していたはずだ。
米空軍戦争大で教壇に立つリンカーン・ハインズ氏は『カナダ放送協会(CBC)』の記事(電子版2月8日)で「不可解なオウンゴール」とし、内部で情報共有がされないまま実行された可能性を挙げた。
米世論の沸騰が誤算に
中国では政府と軍の行動が一致しないことは珍しくはない。ハインズ氏は類似事案として、中国軍による07年の人工衛星破壊実験を挙げた。当時、中国外務省はこの実験について、軍から事前に知らされていなかったと言われている。
また、シカゴ大の楊大利教授は米CNNテレビの記事(電子版2月10日)で、現場の甘…
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週刊エコノミスト
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