国際・政治

G20財務相会議議長国のインド グローバルサウスの債務問題で存在感 西浜徹

ニルマラ・シタラマン財務相(中央)ら会議後の記者会見に出席したインド高官 Bloomberg
ニルマラ・シタラマン財務相(中央)ら会議後の記者会見に出席したインド高官 Bloomberg

 インド南部のベンガルールで開かれていた主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が2月25日、閉幕した。議長国を務めたインドは会議に先立って、新興国や発展途上国が直面する債務問題を主要議題に挙げる考えを明らかにしていた。インドは1月、「グローバルサウス(途上国)の声サミット」をオンラインで開催するなど、新興国や途上国の“盟主”を目指す姿勢を強め、今回の会議を通じてその地位を確固としたものにする狙いが透けてみえる。

 2020年、新型コロナウイルスの感染が世界に広がったことで新興国や途上国は経済に深刻な悪影響を受けた。G20は同年、低所得国向け債務の減免を進めやすくする「共通枠組み」を導入している。その後、主要国が大幅な利上げを始め、国際金融市場を取り巻く環境は激変、足元では低所得国だけでなく、中所得国も債務返済が困難になる例が顕在化している。インドの隣国であるスリランカ、パキスタン、バングラデシュが相次いで債務不履行に陥るか返済が困難になる中、インドは共通枠組みの対象を中所得国に広げることを目指している。

難しい合意形成

 一方、日米欧などは債務を安易に削減するとモラルハザード(倫理の欠如)を招くという懸念を持ち、G20に同枠組みの運用に当たっては透明性の高い取り組みを求めた。2国間融資で世界最大の債権国となった中国は、債務の削減には慎重な姿勢をみせている。

 会議後、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事が「債務再編を巡ってG20の中に見解の相違がある」という認識を示したように、参加国・地域の姿勢には依然として隔たりがある。とはいえ、債務問題の解決を担う重心は、欧米など主要国から中国やインドなど新興国にシフトしたことは間違いない。

 今回の会議が始まった日はロシアがウクライナに侵攻した22年2月24日からちょうど1年のタイミング。しかしインドは当初、この件を議題に盛り込むことに消極的だったとされる。インドは「全方位外交」を外交政策の柱とする一方、ロシアとの関係が元々深い。モディ首相は戦争が始まってから、ロシアのプーチン大統領に戦争を非難する考えを伝える一方、欧米などによるロシアへの経済制裁には同調せず、ロシア産原油の輸入を増やしてきた。

 欧米は会議で対露非難を共同宣言に盛り込むよう要求し、討議された。だが、すべての参加国・地域の承認が必要な共同声明の取りまとめは実現しなかった。

 それに代わって、インドは議長総括を公表し、討議内容と参加国・地域間に見解の相違点があることを指摘した。G20は合意形成が難しくなり、機能不全に陥りつつあることが改めて示された。新興国の存在感が高まる中でG20の意義は重要性を増す一方、意見集約のハードルが高まっていることは間違いない。

(西浜徹・第一生命経済研究所主席エコノミスト)


週刊エコノミスト2023年3月14日号掲載

FOCUS G20財務相会議 存在感高める中国とインド=西浜徹

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