東京都の新築義務化が追い風 既存住宅でも太陽光発電の設置進む(編集部)
東京都の新築住宅への太陽光パネルの設置義務化を追い風に、既存住宅への導入も進みそうだ。ただ、トラブルも多いだけに、信頼できる販売店・施工会社探しが大事だ。
家庭への太陽光発電の導入に関心が高まっている。きっかけは、東京都の新築住宅への太陽光パネルの設置義務化だ。
都は2022年12月に、新築住宅に太陽光パネルの設置を義務付ける条例を可決。2年の周知期間を経て、25年4月から義務化がスタートする。
東京都では2000年を基準年として、30年にカーボンハーフ(温室効果ガスの5割削減)、50年にゼロエミッション(同実質ゼロ)を目指している。都内の20年度の二酸化炭素(CO₂)の排出量のうち、建物が全体の73.5%、家庭部門が同32.3%を占めている。一方で、都内の225万棟(19年度)の建物のうち、太陽光パネルが設置されているのは9万5000棟強で、設置の割合は4%に過ぎず、太陽光パネル設置の余地は大きい。
そこで、都では新築への義務化を待たず、既存住宅への太陽光の導入にも力を入れている。23年度の予算では496億円が投じられ、太陽光パネルのほか、蓄電池、電気自動車と家の間で電気を融通しあうV2H(Vehicle to Home)機器の普及を促していく。
東京都の試算によると、一般家庭が4キロワット時の太陽光パネルを設置した場合、太陽光パネル、パワーコンディショナー(パワコン:パネルで作られた直流の電気を家庭で使われている交流に変える装置)、工事代金を含めた初期費用は98万円。30年間使用するケースでは、1回分のパワコンの交換費用(23万円)を含め、計121万円の支出が生じる。
30年で159万円の効果
一方、太陽光の設置により30年間で、自家消費とFIT(再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度)による売電で、240万円の収入が見込まれる。この結果、30年間で差し引きの経済効果は119万円、都の太陽光パネルへの補助制度(4キロワット時で計40万円)も活用すると、159万円まで増えるとしている。都では「今年の6月からは電気料金も跳ね上がる」(小池百合子・東京都知事)として、導入のメリットは大きいと説明する。
中国メーカーの参入などによる競争激化を受け、太陽光パネル導入のコストは、この10年間で大きく下がっている。FITの売電価格を審査・検討する経済産業省の調達価格等算定委員会によると、既設住宅への太陽光の導入コストは、12年は1キロワット時当たり47万9000円だったが、21年は30万2000円まで下がった(図)。4キロワット時換算では120万8000円となる。東京都の試算より22万8000円ほど高いが、それでも、都の補助金を活用すれば、30年間で100万円以上の経済効果が望めることとなる。
ただ、太陽光の導入に当たって多くの消費者が直面する問題は、どのように、信頼できるパネルメーカーと販売店・施工会社を探し当てるかだろう。多額のお金が動く太陽光発電システムは、12年からのFIT導入や国や自治体の補助金を目当てに多数の業者が参入。国民生活センターによると、全国からの苦情・相談は19年に2420件に上った。具体的には、「電気代がかからなくなる」「売電により自己負担がない」などの過剰なセールストークや強引な勧誘のほか、ずさんな工事による雨漏りなど施工に関するトラブルだ。
太陽光発電の普及促進を目的に、パネルメーカーや施工会社などが設立した太陽光発電協会によると、消費者が既存の住宅に太陽光パネルを付ける際は主に、①太陽光を取り扱っている家電量販店に聞いてみる、②太陽光パネルの比較オンラインサイトを調べる、③太陽光パネルを製造しているメーカーに直接、問い合わせる──の三つの方法があるという。
国内パネルメーカーとして実績のあるパナソニックは、子会社のパナソニックEWスマートエナジーがパネルの販売を手掛けており、そのホームページで実績のある販売店・施工会社を紹介している。
メーカーに施工会社を聞く
同社の正規代理店の一つが「サンドリア」(東京・千代田区)だ。創業は1995年で、関東を中心に1万棟以上の販売・施工の実績がある。同社の豊島昇社長は、「メーカーに直接、施工会社を問い合わせるのが一番、確実な方法」と話す。豊島社長の経験では、オンラインサイトの見積もりでパネルを購入した個人宅を訪問したところ、屋根にパネルが15枚設置されているはずが実際には14枚しかなかったケースがあった。サイトの中には「激安」などと称して、4キロワット時で60万円と国の試算の半額程度の価格を提示しているところもある。相場より大幅に安い場合は、その理由を冷静に見極める必要がありそうだ。
また、太陽光パネルは25年のメーカー保証がついている場合が多いが、過去には「25年保証をうたった中国メーカーが10年で撤退したケースがあった」(豊島社長)。豊島社長は、「そういう意味ではパネルが国内メーカー製でかつ、施工会社がきちんと工事賠償責任保険に入っていれば問題は少ない」と見る。パナソニックEWスマートエナジーの鈴木正紀・関東営業所長は、「太陽光発電は20年、30年と長期にわたって使う。メーカー保証は当たり前だが、メーカーでは機動的に動けない部分もあり、その時に頼りになるのが販売店。やはり、信頼のおける販売店から購入するのが一番良い」と話す。
国内メーカーではパナソニック以外にも実績のあるシャープ、京セラのほか、最近では新興ながら国内生産パネルで急速にシェアを伸ばしている長州産業がある(表)。
太陽光発電協会では、海外メーカー製でも国内で流通しているものはJIS(日本産業規格)に沿っており品質に問題はないとしたうえで、①同じメーカーのパネルでも、複数の販売店から相見積もりを取ること、②契約の際は口約束ではなく書面で残すこと──を推奨している。協会では、パンフレット「失敗しない太陽光発電システム選び 始めようソーラー生活」を作成し、「信頼できる販売・施工業者の選び方」を紹介している。トラブル防止のためにも、購入検討の際には、ぜひ、目を通したい。
(稲留正英・編集部)
週刊エコノミスト2023年3月21日号掲載
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