移住や二地域居住の促進にもー観光庁と地域がタッグを組んで行う 「第2のふるさとづくり」第二期、始動ー[ Economist View]
コロナ禍の影響や働き方の変化などにより、自然の中でゆったりと時間を過ごしたいという志向が高まっている。一方で、人口減少や経済の低迷を課題とする地域は多い。この両者を結びつけ、新たな観光需要の創出や地域経済の活性化を図ろうと、観光庁は「第2のふるさとづくりプロジェクト」を推進。まもなく2回目の実証事業が始まろうとしている。
何度も通う旅、帰る旅を目指して
「地元以外に、帰省しているような感覚を感じられる場所がほしい」人の割合は56%(※1)。「旅先に居場所がほしい」人は36%(※2)。今、第2のふるさとや安らげる居場所への関心が高まっている。こうした状況を受け、観光庁は「何度も地域に通う旅、帰る旅」という新たな旅スタイルの普及・定着を図るべく、「第2のふるさとづくりプロジェクト」を開始した。「都会生活をしている人はとくに田舎への憧れが強い。コロナ禍の影響もあり、密な環境を避けて自然の中で過ごしたいという欲求はさらに高まった。テレワークの普及により、都会にいなくても仕事ができる環境が整ったことも、この風潮を後押ししている」と、佐藤司室長は話す。
プロジェクトの始動は令和3年秋。観光分野に精通した学識経験者や旅行会社などによる有識者会議が発足した。そのとりまとめを受けて、観光庁は令和4年度に第一期となるモデル実証事業を募集。全国の自治体や観光協会、地域協議会、航空会社や鉄道会社などから、190以上の応募があった。「立ち上げたばかりのプロジェクトにこれだけ多くの応募があるとは予測していなかった。応募団体の中には、メジャーな観光資源がなく、これまで観光にあまり力を入れてこなかった地域が多い。しかし、そうした地域こそ人口減少や働き手不足に悩んでいる。このプロジェクトをきっかけに本気で課題を解決し、地域活性化につなげたいという熱意が申請書から伝わってきた」(佐藤室長)。
モデル事業として採択されたのは北海道から沖縄まで、全国各地の19の事業。採択事業には1200万円を上限に経費が支弁された。また、観光庁や事務局のスタッフはそれぞれの地域に足を運び、伴走支援を行った。「個人的に強い印象を受けたのは、北海道川上郡弟子屈町のプロジェクト。この事業には、観光を入り口にして来訪者と地域との関係性を深め、将来的に二地域居住や移住につなげたいという明確な意図があった。旅のプランにも来訪者に地域での仕事を体験してもらうなどユニークなものが多く、結果として再来訪意向90%、配信動画1900フォローと、再来訪につながる大きな成果を得た」(佐藤室長)。
19のモデル実証は令和4年度中にすべて完了。全モデルを分析してわかったことの一つが、来訪者と地域を結ぶ「コンシェルジュ」の有用性だ。「コンシェルジュが来訪者の意向に沿って工芸品の職人や隠れた名店を紹介するなどのサービスがあると、来訪者はその地域に強い印象をもつし、地域の人々との関係性を築きやすくなる」(佐藤室長)一方で、再来訪を促すには、移動手段や滞在場所の確保などが課題であることもわかった。これらの成果をとりまとめた上で、観光庁は令和5年度、新たなモデル実証事業を公募する(4月17日まで)。こうした情報を共有する「第2のふるさとづくり推進ネットワーク」には、300以上の自治体や企業などが参加。新しい観光需要を掘り起こし、地域経済を活性化する旅のかたちは今後、全国で同時多発的に広まっていきそうだ。
※1 週刊じゃらん「新しい帰省スタイルに関する調査」より
※2 じゃらんリサーチセンター