いまこそ中小企業の“廃業支援”を 産業の新陳代謝へ政策を転換せよ 佐藤主光
有料記事
日本経済の処方箋/13 国際的にみても日本の開廃業率は低く、生産性の低い企業が市場にとどまっていることを示唆する。コロナ禍では「ゾンビ企業」も増加した。
新型コロナウイルス禍が明けても、日本経済の回復は鈍い。内閣府や日銀の試算を見ても、日本の潜在成長率(長い目で見た経済の成長力)が1%以下の状況から一向に引き上がらないためである。長らくデフレ(持続的な物価下落)が続いたこともあり、日本の経済対策は需要の喚起に偏ってきた。しかし、中長期的に成長を支えるのは量的な需要拡大ではなく、イノベーションの創出を通じた生産性の向上だろう。賃金が低迷する背景にも低い労働生産性がある。
では、誰がイノベーションの担い手なのか。20世紀の経済学者の巨人シュンペーターは、企業家のアニマルスピリッツ(好奇心や探求心など)こそがイノベーションの源泉になるとした。ただし、シュンペーターがいう企業家は、「属人的」な概念ではなく「機能」であることを強調する。イノベーションを果たす時のみ企業家でいられるというわけだ。生涯を通じて企業家であり続ける人は少ない。ここで重要になるのは「企業家=成長の担い手」の「新陳代謝」(参入・退出)だ。
政府も昨年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」で、「企業の参入率・退出率の合計(創造的破壊の指標)が高い国ほど、1人当たり経済成長率が高い」、特に「若い企業(スタートアップ)の方が付加価値創造の貢献率が高い」としている。2023年度税制改正では、大企業などによるスタートアップ企業への投資を一定額控除する「イノベーション促進税制」を「入り口=出資」にとどまらず、「出口=M&A(企業の合併・買収)」まで適用することが決まっている。
増えた「ゾンビ企業」
国際的にみて日本の開廃業率は低く推移してきた。中小企業白書(22年版)によれば、廃業率はコロナ禍前の19年で日本が3.4%の一方、米国は8.5%、英国10.8%で、開業率も同様である(図)。これは、生産性の低い企業が市場にとどまっていることも示唆する。さまざまな要因が考えられるが、政策の決定・実施で既得権益が優先されがちであることも一因であろう。例えば、IT事業者が(禁煙など治療用アプリを含む)プログラム医療機器の開発・販売などに参入しようとしても、これを難しくする規制が残っている。
既存企業を優先する向きは、コロナ禍においても変わりはなかった。政府は雇用調整助成金で雇用を確保しつつ、企業に対して実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」によって企業に資金供給してきた。コロナ禍という非常時においても、現状維持を志向していたともいえる。さらに、一定の要件を課すとはいえ、企業の返済負担軽減のための新たな信用保証制度として、「コロナ借り換え保証」も始めている。
その副作用が、いわゆる「ゾンビ企業」の増加だ。帝国データバンクによれば、支払利息を営業利益などで賄えないゾンビ企業は、全国で約18.8万社にのぼると推計されている(22年11月時点)。コロナ禍を契機に生産性の高い分野への雇用や資金の再配分が起きているとは言い難い。新陳代謝の機会を失わせることは、中長期的に生産性を低迷させ、経済の成長を損ねかねない。
企業はこれまで、雇用継続という形でセーフティーネットの機能を担ってきた。しかし、セーフティーネットは国(公共)の責任であるべきだ。ここで守るべきは「ヒト=労働者(雇用)」と蓄積してきた「ノウハウ=技術」であり「組織=企業」ではない。技術の維持のためには、第三者への事業の承継あるいは譲渡(…
残り1132文字(全文2632文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める