経済・企業

すららネット、外国人向けに日本語教材を開発――「特定技能制度」で外国人労働者とその子弟の増加に対応

すららネットの湯野川孝彦社長
すららネットの湯野川孝彦社長

 オンラインで学ぶインタラクティブ(双方向)なICT(情報通信技術)教材を提供しているすららネットが、この春から日本語教材「すららにほんご」の提供を開始する。日本で働く外国人やその子弟の日本語学習ニーズに応える。同社の湯野川孝彦社長に新製品の狙いや、足元の業績などについて聞いた。(聞き手=稲留正英・編集部)

―― 今回、日本語教材を提供する狙いは。

■人口減少による人手不足を補うため、政府は2019年4月、外国人の新たな在留資格として特定技能制度を創設しました。一定の技能と日本語能力を持った人たちが在留を認められます。これを受け、海外の送り出し機関や日本国内の日本語学校で、日本語学習のニーズが高まっています。日本に在留する外国人は約296万人で、外国人労働者は173万人と過去最高を更新しています。

 一方で、日本の教育の現場では、教師の不足や教える力のバラツキという課題を抱えています。その結果、例えば、各地の公立学校では、海外にルーツを持つ子供たちが、日本語ができないがゆえに、勉強に非常に苦労しています。

―― そうした子供たちが学校でいじめられるという話も聞きます。

■中には、障害があるわけでもないのに、特別支援教室に入れられているケースもあります。文部科学省によると、日本語教育が必要とされる日本在住の外国人児童は5万人以上いるのに対し、受け入れ態勢が整備されている自治体は52.6%に過ぎません。また、日本語学習でICTを活用しているのは3割だけという実態があります。こうした社会課題を解決するため、自学自習で学ぶICT教材を作成しました。

日本人声優の声で聞き取りやすく

―― 教材の特徴は。

■動画教材であれば、会話を一方的に聞くだけですが、すららネットが開発する教材の特徴は、「インタラクティブ(双方向の対話形式)」であることです。アニメのキャラクターを用いたレクチャーは、日本で活躍する声優によるナレーションなので、聞き取りやすく、親しみを覚える内容です。読む、聞くだけでなく、日本語を書く練習も一緒にできます。元々、すららの小学生向けの教材用に、書き取りのモジュールを作っていたので、その技術の応用です。

―― 対応する言語は。

■現時点では、英語、インドネシア語、カンボジアのクメール語です。今後、状況に応じて、言語を増やすことも可能です。

―― 想定する市場は。

■まず、海外の送り出し機関向けに、こうしたICT教材のニーズがあると思います。日本の自治体も、これまでこうした教材の選択肢がなく、悩んでいました。そういったところに、受け入れられると見ています。特定技能制度は、建設、自動車整備、宿泊、農業、漁業など14分野があり、技能実習と違い転職も可能です。日本で働く外国人は増え、市場も膨らむのではないかと見ています。

公立学校での利用は増加

―― 足元の業績は。

■2022年12月期の売上高は前年比で伸びており、引き続き成長はしています。しかし、塾事業が見込みより落ちこんだため、それで昨年8月に業績を下方修正しました。ただ、営業利益(4億9881万円)については期初の目標(4億6400万円)を達成しています。

―― 2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大した時は、全国の小中学生にパソコンやタブレットなどの情報端末を配り、オンライン学習を促す政府の「GIGAスクール構想」が追い風になるという期待感が相当ありました。期待したほどの効果はなかったのか、あるいは効果が出るまで時間がかかるのでしょうか。

■2019年まで学校市場はもちろん我々の主要チャネルの一つとしてありましたが、ほとんど全てが私立学校向けで、公立学校については全く市場参入できていませんでした。それが20年のGIGAスクール構想と新型コロナによる一斉休校で、その市場に参入することができたのは、当社にとってプラスでした。

―― 22年12月期の決算を見ると、公立校のすららの導入数とID課金数が減っています。

■2020年から始まった経済産業省の「EdTech(エドテック)導入補助金」が成長の大きな要素になりました。しかし、22年はそれまではほとんど100%だった公立学校の採択率が、採択方針の変更があったようで、少し落ちました。しかし、公立学校全体では利用は増え、売り上げも着実に増えています。まずまずの結果ではないでしょうか。

端末を導入するだけではだめ、活用方法のコンサルが必須

―― 今年、来年以降の見通しは。また引き続き回復していくのか。

■2025年ぐらいが大きな節目になってきます。そこではエドテック教材を複数年契約していた自治体が利用期間を経て、改めて教材を切り替える動きが顕著に出てくるではないかと思っており、そこが当社のチャンスになると見ています。

 背景には、2020年、21年に生徒に端末を配ったが、「今後はちゃんと活用して成果を出したいよね」という風に、自治体や学校側のニーズも変わってきていることがあります。そうなると、私立校向けで実績のある我々は強く、さらにシェアを伸ばしていくことはできるのではないかと見ています。また、「すらら」のニューバージョンとして新開発する「NEOすらら」を25年にリリースすることも貢献すると見ています。

外国人向けの日本語のICT教材を開発(湯野川孝彦社長)
外国人向けの日本語のICT教材を開発(湯野川孝彦社長)

―― 端末を導入するだけでは駄目で、それをどう活用していくか、そのコンサルティングが大事だということを、学校側が気付いたと。

■教育界としてそれが最近わかってきたということでしょう。我々としては、既に経験がある私立学校と一緒なので、強みが活かせる状況になりつつあると思っています。

―― 学校市場を見ると、全国3万4000校に対してすららが導入されているのは、1200校で導入率は3.5%です。そういう意味では潜在的な需要はあるし、既に導入したところについても、使い方を教えていけば、もっと積極的に活用してもらえると。

■そういう感じです。我々が導入しているところは、比較的成果が出ていると思っています。すららでちゃんと成果が出る、きちんとフォローしてくれるという認知が広まれば、2025年の切り替えのピーク時に、シェアが取れると見ています。

滋賀県守山市の中学校で大幅な成績向上

―― 今後、2025年に向けた認知度を高めるための活動、学校の中での活用度を高める取り組み、あるいはそのための人員の増員などは。

■文部科学省のほか、特に経済産業省は「教育産業室」という部署で成功事例を広めるための啓能活動をしており、その中に我々が優良な事例としていつも取り上げられています。昨年8月にも、滋賀県守山市の中学校4校で、約1000人の中学1年生を対象に活用したところ、4教科400点満点の確認テストで、4校の平均点が前年比で約18点向上し、中には平均点が27点以上向上した学校もありました。そういった学校の先生方とセミナーを開くと一定の参加があったりしますので、そういったことを積極的にやっていきたいなと。あと論文です。日本デジタル教科書学会では、すららが発表した論文の参照数が非常に多く、1月度のアクセスランキングでは上位5本のうち、3本が当社のものが入りました。そういうものも積極的に広報活動し、認知度アップに繋げていきたいと思います。

―― すららの教育現場での使い方を促進させるような人員の強化は。

■1校1校の課題に合わせた運用の提案やフォローができる学校チームのメンバーを増やしていこうと考えています。あとは開発のメンバーも増やしていきます。

―― 一方で、塾向けが伸びていないということですが。

■やはり、少子化の影響のほか、コロナの影響もありました。塾でもどんどんエドテック教材を使うようになっていて、それは追い風の要因でもあるのですが、一方で塾が使うエドテック教材の多様化があります。以前はすららだけを使っていたある塾が他社のB教材、C教材も使うようになってくると、我々から見ると、塾あたりのあの生徒数、ID数がちょっと減るということになりますので、その辺も影響は受けています。

不登校の拡大で、親からの教材の問い合わせが増えた

―― B2C(消費者向け)とか海外マーケットは?

■B2C市場は安定成長をしています。特に昨年10月末に話題になったのは不登校です。それまで全国で19万人だったのが24万人と25%も増えました。近年にないぐらいに大きく増えています。それが影響して、やはり不登校の児童を持つ親からの問い合わせは、着実に増えています。基本的に我々のB2Cについては、親が深い悩みを抱えている不登校、発達障害、学習障害などにフォーカスしています。

宇宙をテーマにした探究学習教材も計画(すららネットの湯野川孝彦社長
宇宙をテーマにした探究学習教材も計画(すららネットの湯野川孝彦社長

―― 学校に話を戻すと、前回2020年に取材したときは、すららの活用は、例えば、宿題の配布から採点までボタン一つでできるため、教育現場での先生の働き改革につながるのというお話でした。

■それはおっしゃる通りなんですけど、それも先ほどの活用とか運用にもよってくるんですね。例えば、夏休みの宿題を出す時に、全部すららで出したら、ボタン一つで済みますし、多くの手間が不要となります。生徒の理解度に応じて、違う問題を出したりできます。生徒には一人ひとりにあった個別最適な学習ができるし、先生もとても楽になります。一方、従来の宿題を出しながらすららの宿題を出すということになると、先生にとっては手間が増えることになってしまう。何を馬鹿なと思うかもしれませんけど、そういうことをしている学校が少なからずあります。「いや、いや、そういう使い方ではありません」とアドバイスして、上手に活用してもらうことで、成果実感とか働き方改革にとっても、全然違う、見違えるように楽になります。宿題を出すのもボタン1つです。これまでプリントアウトして生徒に渡して回収して、それを採点して集計してってのが、全部なくなるわけですから非常に大きいんです。

ICT教材の導入で「水を得た魚」になる若い先生も

―― 少子化に伴って、生徒の学力格差も開いているようです。

■先生方の現場実感としても、生徒の学力の格差が非常に増えてきていると。高度経済成長期みたいに、子供たちが多かったら学力別クラス編成にできますが、今は子供の数が少ないから、一つのクラスに集める。そうすると、すごくできる子も全然できない子もいて、誰に合わせて授業するんだっていう感じになってしまいます。そういった時にはアダプティブな個別学習というのが非常に向いています。

 先生方は長きにわたって集合授業の教え方しかしなかったので、頭で理解しても体が動かないみたいところがありますが、個別学習の良さが分かると、水を得た魚のように動き出します。そこに持っていくまでのフォローが結構大変なんです。

―― 若い先生で、ITに結構親しみがある人だったらいいんですけど、年齢が上の先生だと、ITというだけで敬遠してしまって。

■そうなんです。公立学校は、ITとは程遠かったので、GIGAスクールで我々が入っていった時は、現場の先生に受け入れられにくいのではないかとか思いました。50代とか60代とかで実際にそういう先生はいますけど、若手の先生のなかに「待っていました」みたいな人たちもいることがわかりました。こういう人たちをいかに盛り立てていくかというのも、我のオペレーションの一つになっていきます。

先生の役割は「モチベーター」や「メンター」に

―― 子どもたちだけでなく、将来世代の先生たちも育てていくと。

■そうです。すららを使うと、教えなくてよいので、先生の役割もティーチャーではなくなる。これからは、ファシリテーターだったり、モチベーターだったり、メンターだったり、全く役割が変わってくる。すららを先行して入れている塾や学校で何が起きてるかというと、我々が「ニュータイプ」と呼んでいる新しいタイプの先生、これまでのやり方では全然目立たなかった先生が頭角を現しています。既に塾では経営者に提言して、先生の評価制度を変えたりしてもらっています。そうしたことをして、組織全体で新しい変革を受け入れられるようにしていくというのが非常に大事なんです。

インドネシアの100以上の公立校で1万人の生徒が学ぶ

―― 海外市場はどうでしょうか。

■新型コロナの影響は、どこの国でも一緒です。海外は私立学校をメインにやっていたのですが、日本では私立学校の休校は3カ月ぐらいでしたが、海外は1年や2年でそちらのダメージをもろに受けました。日本では、その時に、GIGAスクール構想なり、エドテック補助金なりで、国がちゃんと予算を投入しましたが、海外はそれがなかったので大変でした。

 ただし、海外でも「やはりオンライン教育は必要だよね」という風に意識は変わってきていて、潜在的な市場は拡大してきているのかなと思っています。新しい動きとしては、インドネシアでアジア開発銀行の研究所が主導して公立学校でかなり大規模な形のエドテックの実証試験が行われていて、我々に白羽の矢が立ちました。今、公立の100校以上で1万人程度の生徒たちが、海外向けの教材「Surala Ninja!」で学習しています。

 インドネシアは若い人たちが非常に多く、これから発展する感じがします。まだ、算数力は弱い。先日、現地に出張して、日本で中学一年に相当する子供たちを見てきたのですが、掛け算の九九では、2、3、4段までは行くが、7、8、9の段とか言うと全然もう手が止まってしまい、頭に入ってない生徒が少なからずいます。

 もちろん、できる子はさっさとできるのでしょうが、日本以上に差が開いている感じですね。だから、こういうところにはすららのようなアダクティブな教材を小学校から入れると非常に効果があるのではないかなと思います。今のレベルが低い分、伸びしろが非常にあります。

「探究学習」で「宇宙」をテーマの教材導入を検討

―― 「探求学習」でもこの春から新しい教材を導入するそうですが。

■従来型の学びは、定型的な、答えが分かっているような問題を解くことに重点があります。しかし、答えがないようなものでも課題設定して、情報収集して結論を出す、社会に出た時に仕事ができるような力を付ける教育を学校でもやりましょうという流れになってきています。もちろん、従来の基礎的な学びは必要ですが、そこの部分はエドテックでソフトウエアに任して、学校では先生方が子供たちと一緒にワークショップをしたりとか、アクティブラーニングをしたり、という風に、大転換していく。

 その分野において、我々はコンテンツをリリースします。NECスペーステクノロジーという小惑星探査機「はやぶさ」の開発にも関わった企業と一緒に、宇宙を題材にした探求型教材です。

 宇宙に関する素材は、先生方にも詳しい人がいないかもしれませんので全部用意してあげて、それを基に進行できるようにしています。最後に取り組みを評価する仕組みも組み込まれています。生徒に対しては探究学習における基礎スキルを身に着けることを、先生に対しては業務軽減を目指した教材です。

(終わり)

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