兵なく落武者狩りの恐れもあった伊賀越えなど“家康の三大危機”描く 今谷明
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今年のNHK大河ドラマは徳川家康がテーマで、家康関連本が書店にあふれている。今回はその中でも比較的手堅い手法で家康の危機を再現した書物を取り上げてみたい。
濱田浩一郎著『家康クライシス─天下人の危機回避術』(ワニブックスPLUS新書、990円)は、①三河一向一揆、②三方ヶ原(みかたがはら)の戦い、③本能寺の変、の3事件を家康の三大危機として注目し、特筆大書している。これをすべて紹介するのは大変だから、③の危機について、その背景などを説明したい。
③の事件については、“家康の伊賀越え”として一般に知られるものである。家康の没後、“神君生涯の危難”として特に幕府関係者を中心に危難の「宣伝」が行われたという点でも特異なものであろう。
本能寺の変勃発当時、家康はわずか主従数十人で和泉堺の宿舎に就寝中であった。彼が事変を知ったのは、その日の昼ごろ、河内の高野街道で上洛の途上であった。なにしろ織田信長の領国が一瞬に無政府状態に投げ込まれ、しかも家康は軍隊を率いてもいなかったのである。当時畿内近国では、“落武者狩り”の慣行があって、土民に身ぐるみはがされ、殺される恐れもあった。
家康ははじめ「上洛…
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週刊エコノミスト
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