必ずしも“ほったらかし投資”を勧められない二つの理由 岩沢誠一郎
学習と明確な意思抜きに投資を行い、それがうまくいくなどと考えるのは堕落である。
2024年以降、新しいNISA制度が導入される予定になり、投資雑誌などで関連の特集が組まれる機会が多くなっているが、そこではしばしば「ほったらかし投資」という言葉を目にする。それは次のような投資である。
つみたてNISA口座に毎月少額を積み立て、世界株、米国株、日本株などの市場指数連動型投信を毎月買い付ける。積み立てを始めたら株価の動向など気にせず、粛々と積み立て投資を行う。これを数十年続ければ積み立てた資金は、自然と大きくなっていくだろう。新NISA制度の下での最大の無税枠である1800万円を生涯で積み立て、それが売却時に例えば2倍の3600万円まで膨らんでいれば、利益の1800万円を無税で手にすることができる。これが「ほったらかし投資」の概要である。
こうしたやり方には、確かに良いところがある。まず、毎月の自分の収入からいくばくかの資金を将来のための貯蓄に回す、そうした行動を習慣化する仕組みが組み込まれていることである。貯蓄なくして資産を形成することはできない。貯蓄の習慣をつけるのは、とても良いことである。
次に「ほったらかし投資」には、株価が比較的安い時により多くの株式を買い付けることができ、結果的に購入する株式の平均単価を下げることができるというメリットがある。このメリットは確かに大きい。というのは、多くの株式投資家が、自然体で(あまり考えずに)投資を行うと、この真逆の行動をとることになりがちだからである。
株は安く買って高く売れば利益が出る。そのことは誰もが理解できるはずである。しかし、実際にはどうか。図1に、日経平均株価と、投資信託経由の日本株市場への資金流出入の推移を示した。投資信託の投資家が株を「安く買い、高く売る」行動をとっているのであれば、株価が安い時期に市場に多くの資金が流入し、逆に高い時期には資金が流出するはずである。
資産形成でなく、資産崩壊
ところが、データはまさしくこの真逆を示している。株の安い時期には、投資家のアクションはほとんどみられない。そして、株価が上がるにつれ、投資家の買い意欲は増し、株価のピークまたは、その近辺で投信を大量に購入する傾向が強い。これでは株式投信への投資が資産形成どころか、資産崩壊をもたらしてきたことだろう。
株価が上がっている時には、それが続くような気がして強気になる。下がっていると弱気になってしまう。それは人間の性(さが)である。しかし、その性のままに行動をとると、最悪のタイミングで投資を行い、逆に最善のタイミングでの投資を逃してしまうことになる。
この点、毎月一定金額を積み立てし、そのお金で株式投信を買うことにすれば、株価が安い時期により多くの株を買い付け、逆に高い時期にはより少ない株を買い付けることになる。愚かな投資を自然と回避することができるのである。
さてここまで「ほったらかし投資」の良い点を述べてきたが、私がこれを親しい人に勧めるかというと、答えはノーである。大きな問題は二つある。
一つは、積み立て投資を今後30年行うとすると、30年間株式投資について何も考えずに投資を続けることになるわけである。こうしたことが「良い」とされるのは「株価は長期では上がるはずだ」という観念があるためだが、その観念の根拠は何かというと、過去100年ほどの間にそうだったからという事実に過ぎないのである。
20世紀及び21世紀初頭の株式市場が、米国でいうと年率平均で10%ほどのリターンをあげてきたことは確かである。だが、その背景には20世紀以降の先進国のマクロ経済が、それ以前の数世紀から比べ異例の高成長を遂げてきたという事実があり、そこには技術革新、グローバル化の進展、人口の増加などの要因があった。
しかし現時点では、少なくともグローバル化や人口の問題が曲がり角に来ていることは明らかであり、このことは今後株式の長期投資のリターンが過去1世紀ほどのものでなくなる可能性を示唆している。そうすると、投資にはより慎重な姿勢で臨むことが必要と思われるのである。
高値で買い、危機で売る愚
二つ目は、「ほったらかし投資」を長期で行えば投資が成功するとは限らないということである。例として、過去、日経平均株価と連動する投信に30年間一定金額の積み立て投資を行ったと想定し、その運用成果を考えてみよう。
1949年5月から2023年2月までの、連続する任意の30年間の中で、積み立て投資のパフォーマンスが最悪だったのは、79年2月から09年2月までの30年であり、その間に1800万円の投資をしていたら、およそ760万円もの損失が出ていた計算になる。なぜ、この間のパフォーマンスがそれほど悪いのかというと、まず買い付けた時期の多くが「バブル」といわれたような株価が割高な時期であったこと、そして売却したのがリーマン・ショック直後の株価安値の時期であったことが、その理由である(図2)。
要するに、投資のタイミングを考えずに機械的に株価が割高な時期に買い続け、割安な時期に売れば、30年に及ぶ積み立て投資が大きな損失に終わってしまうこともあり得るのだ。
こうした点を踏まえ私が推奨するのは、米国の景気循環を踏まえてタイミングを考慮しながら積み立て投資を行うことである。
賢者の投資を追求
世界株投信も、日本株投信も、株価変動のタイミングは米国株のそれとほぼ連動するので、米国の景気循環を踏まえることが基本である。景気循環の動向をウオッチし、金融政策の引き締め傾向が強くなる景気拡大期の後半に入ったら、積み立て(貯蓄)は継続したまま、株式投信への投資をストップする。そして、景気後退の最終局面、株価が底値圏にあるとみられるタイミングで、それまで積み立てておいた資金をつぎ込むのである。こうすれば、投資の簿価を安くすることができる。
また、そうして景気と株価の循環に関する学びを積み上げていけば、投資の最終段階で積み立ててきた投信を株価の安値圏で売却するような愚かな行動を避けることができるだろう。
学習と意思抜きに投資を行い、それがうまくいくなどと考えるのは堕落である。ほったらかしでうまくいくなどという甘言に乗ることなく、賢者の投資を追求することをお勧めしたい。
(岩沢誠一郎・名古屋商科大学ビジネススクール教授)
週刊エコノミスト2023年4月4日号掲載
新NISA 異議あり! 時期をとらえる 「ほったらかし投資」 米国景気循環にらみ積み立てを=岩沢誠一郎