ゆうちょ銀行のファンド組成でイノベーション・エコシステムを 岩田一政
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日本経済の処方箋/15 低迷する日本のデジタル競争力。再生のために必要なのは、中小企業庁のスタートアップ庁への改編、そしてミューチュアル・ファンド・バンキング(特定目的銀行制度)の導入だ。
日本は1990年のバブル崩壊以降、高度成長時代に得意としてきた産業転換能力を喪失した。企業部門は投資超過主体から貯蓄超過主体へと転換し、日本経済は長期停滞、日本銀行はゼロ金利制約に直面した。
日本のデジタル国際競争力は、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が公表するランキングで29位だが、ビッグデータとAI(人工知能)の活用は最下位の63位だ。総務省情報通信政策研究所が取りまとめた「AI経済検討会報告書2022」によれば、AIを活用している日本企業の比率は5%に過ぎない。他国の平均は35%を超えており、中国企業は7~8割に達している。
日本経済再生の鍵を握るのは医療・医薬品、バイオテクノロジーなど他の先端部門と同様に、ベンチャーのエコシステムを基盤としたオープン・イノベーションの国際的な事業展開だ。
「スタートアップ庁」へ改編
脱炭素社会の実現には、2030年代に二酸化炭素(CO₂)1トン当たり1万2000円のカーボンプライシング(CP)が必要だ。脱炭素化を進めるために発行する移行債20兆円の償還費は、賦課金と有償オークション収入によるとされている。これらの収入をCPに置き換え、現行の地球温暖化税(CO₂排出1トン当たり289円)を合わせても1200円程度に過ぎない。地球上の環境制約の大きさを示すCPの活用も遅れている。
デジタルトランスフォーメーション(DX)もグリーントランスフォーメーション(GX)も遅れた結果、上場企業の48%のPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている。米国ではPBRが1倍を下回る企業の比率は5%に過ぎない。不採算事業からの速やかな撤退・再編とベンチャーのエコシステムを活用した高収益の新規事業の国際展開がなされていない。
マクロ的にみると、日本企業は有形実物資本ストックの比率が高く、データ、ソフトウエア、人的資本など無形資本ストックの比率が低い。日本では両者の比率は7対3であるが、米国はその逆(3対7)である。加えて、日本企業の場合、ビジネス戦略のみならず研究開発においても自前主義が強く、特許数は多いものの「休眠特許」が多い。研究開発の国際連携やオープン・イノベーションが圧倒的に不足している。
中小企業についても、90年代半ば以降の低金利政策の継続もあって、金融・資本市場を通じた資源配分機能が減退し、退出すべき企業の存在により新規企業の進出が妨げられている。戦後の中小企業政策は、高度成長による産業転換から生ずるゆがみから中小企業を保護することを主眼とした政策が維持されてきた。しかし、保護政策は不採算企業を延命させることはできても、最終的には誰も救うことはできない。
日本再生の第一の条件は、日本の中小企業庁をベンチャーのエコシステム生成に特化した「スタートアップ庁」に改編することだ。
第二に、岸田文雄政権は「新しい資本主義」推進のために、スタートアップ支援策とデジタル田園都市国家構想を公表しているが、フランスのスタートアップ支援策は、両者を組み合わせている点で興味深い。フランスは97年にスタートアップのためのシードマネー(創業資金)を確保するために「イノベーションのためのミューチュアル・ファンド(投資信託)」を創設した。
さらに、地方におけるシードマネー確保のために「地方投資基金」を設置した。これら基金に対する税制面での優遇措置は手厚く、…
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週刊エコノミスト
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