脱デフレで消費関連株やDX関連株に注目 広木隆
植田和男新総裁の下での日銀の金融政策について、全般的には慎重に政策変更が検討されるとの見方が市場のコンセンサスだと思われる。しかし、長期金利については、その上限が早晩撤廃されるとの観測が有力になっている。ポイントはイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)が撤廃されて長期金利は上昇するかという点だ。
筆者の予想は期待インフレ率の上昇を反映して若干ながら上がるというものだ。日本は長くインフレが起きなかったために人々の「インフレ期待」も高まらなかった。ところが、足元で実際に物価が上がり始め、この春の賃上げはおよそ30年ぶりの高い水準になった。こういう状況になると、さすがに期待インフレ率も上昇しておかしくない。ただし実際の物価が持続的・安定的に2%を上回る状況ではないためYCCが撤廃されても長期金利はせいぜい1%程度までの上昇がいいところだろう。
おカネを使う流れに
それでも日本の長期金利が上昇する意義は大きい。日本がようやくデフレを脱却できたことの象徴だと受け止められるからである。日本の長期金利が「上がらない・上げられない」状況こそ、デフレ脱却に至っていない証しであった。それが自然体で金利が「上がる・上げられる」状況になれば、真のデフレ脱却を内外にアピールできるのだ。
株式投資の観点からデフレ脱却で選好される業種は何か?
デフレ下では「Cash is King」だから、みんなおカネを握りしめて使おうとしない。その反対にインフレは貨幣の購買力が落ちていくのでおカネを使おうとするだろう。家計は消費を、企業は投資を増やすだろう。業種としては消費関連では小売り・外食・観光・陸運・空運など、設備投資関連としてはその受け皿になる機械・電機・ソフトウエアなどが有望だ。
3月調査の日銀短観では、小売りの業況判断は10ポイント改善と改善幅が最大だったが主な理由として「価格転嫁の進展」を挙げた。人々のインフレ期待が高まり値上げが通りやすくなったのだ。そうした中でコロナの沈静化が一段と進み、経済や社会生活が正常化してくる。人々が買い物や外食やレジャーなどにおカネを使い、値上げで十分利益が確保できる良好な収益構造になることが期待できる。上述した30年ぶりの賃上げも家計の消費を後押しするだろう。さらにインバウンドの復活もこのセクターの追い風となる。具体的な銘柄は消費関連で三越伊勢丹ホールディングス、高島屋、レジャーはオリエンタルランド、陸運はJR各社、空運はANAホールディングス、日本航空(JAL)など。
また、設備投資関連も企業のカネ放れ=投資という観点から注目である。設備投資が活性化する理由はインフレだけでなく、人手不足対策としての省力化を進めるニーズもある。また、コロナ禍で先送りされていたDX・GX投資も一気に動きだしてくるとみられる。もともと行わなければならない投資案件だったが、コロナ対策で優先順位が後手に回っていたものがかなりあるだろう。設備投資関連では典型的なファクトリー・オートメーション企業も無論、有望な投資対象だが、DXの進展ニーズを考えるとソフトウエア投資の需要も高まるだろう。具体的にはシステムインテグレーターのNTTデータ、野村総合研究所、伊藤忠テクノソリューションズ、オービック、大塚商会などに注目している。
(広木隆、マネックス証券チーフ・ストラテジスト)
週刊エコノミスト2023年4月25日号掲載
世界金融危機 日本株3 脱デフレ 家計の消費や企業の投資が活発に=広木隆