ローマとヴェネツィアに学ぶ経済発展の条件 塩野七生②(2007年5月8日)
有料記事
(2007年5月8日号に掲載)
塩野七生さんは、2006年末、ローマ帝国の興隆と衰亡を描いた『ローマ人の物語』の全15巻を完結させた。塩野さんが執筆した1国の「通史」には、ローマともう一つ、ヴェネツィアを描いた『海の都の物語』がある。ともに1000年以上を生き抜いた強国に共通する発展の条件とは何なのか。なかでも経済に関する条件を聞いた。3回に分けて掲載する。(聞き手/構成=平野純一・編集部)
>>第1回はこちら
頑張れば報われる仕組みが発展を生み出す
共同体と個人の利益の一致
―― ヴェネツィアの商業のやり方は、共同体の利益と個人の利益が見事にマッチするようなシステムになっていました。
塩野 ヴェネツィアの商船は、下は見習い水夫に至るまで、乗組員はその立場に応じた量の自分の商品を持ち込むことが許されていました。乗組員の商品は積荷代金を払わなくてよかった。こうすると、船長からお客の商人はもちろん、見習い水夫に至るまで、乗船員全員の利害は完全に一致することになるのです。
つまり、全体の利益と個人の利益が一致するシステムが見事に貫徹されていました。そうなると、誰だって沈没しないように一生懸命に船を漕ぐわけです。
ここでもフィレンツェと比べてしまいますが、フィレンツェの場合はメディチ家がいくらお金持ちになっても、職人たちまで利益が回ってこない。だからストが起きたわけです。ヴェネツィアではストは起きないんです。
ローマを見てみれば、奴隷の反乱が起きたのは、何と紀元前1世紀のスパルタクスの反乱が最後です。この後は本格的な反乱はまったく起きなかった。
―― さらにローマでは、あの時代にすでに社会福祉制度があったとはすごいことです。
塩野 ローマでは市民権を持っている人には、一定量の小麦の配給が受けられる権利がありました。
でもこれは、貧しい人が対象ではありません。市民権を持っている人全員です。なかなか賢いなと思ったのは、どこから以下が貧しい人という線を引くことはできないということです。誰が調査をするんでしょうか。線引きは非常に難しいんです。だから、全員に権利はある。しかし、その配り方は“工夫”していました。
ローマの街のなかに、小麦を貯蔵する建物があり、2カ月に1度程度、そこでローマ市民20万人に配る。これは市民権を持つ本人が出頭し、きちんと列に並んで受け取ることになっていました。でも20万人…
残り5137文字(全文6137文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める