ローマとヴェネツィアに学ぶ経済発展の条件 塩野七生①(2007年5月8日)
有料記事
(2007年5月8日号に掲載)
塩野七生さんは、2006年末、ローマ帝国の興隆と衰亡を描いた『ローマ人の物語』の全15巻を完結させた。塩野さんが執筆した1国の「通史」には、ローマともう一つ、ヴェネツィアを描いた『海の都の物語』がある。ともに1000年以上を生き抜いた強国に共通する発展の条件とは何なのか。なかでも経済に関する条件を聞いた。3回に分けて掲載する。(聞き手/構成=平野純一・編集部)
>>第2回はこちら
国が「システム」として機能する--まずそれが大切
ローマとヴェネツィアの「やり方」
―― 塩野さんは、国の発展にはシステムが重要だと強調しています。
塩野 発展の初期段階は、非常に優れた個人が生まれるのだと思います。しかし、その個人は才能があっても、次に継ぐ人が才能があるとは限らない。自分が所属する共同体の未来を考えれば、共同体がうまく機能するシステムを考えることは非常に重要です。
共和政ローマでは、執政官という最高権力者が2人おり、1年交代で選挙で選ばれて就くという、個人に権力が集中しないシステムをとっていました。
もちろん、リーダーがしっかりしていなくては、国は滅びてしまうのですが、しかし、システムがうまく機能していれば、ある程度のことは防げる。ローマは、初代皇帝アウグストゥス(紀元前63~紀元14年)の時代から帝政に移行しましたが、のちに悪名高き皇帝と言われたカリグラ(在位37~41年)や、ネロ(在位54~68年)の時代になっても、国そのものが、ものすごいダメージを受けることはなかったということです。
一方、ヴェネツィアは交易で栄えた海洋国家です。ヴェネツィアの置かれた地理的位置を見れば分かりますが、アドリア海の一番奥にある。ヴェネツィアと経済関係にある国は、全部海に向かっているのです。
だから、交易を効率的に行うために、航海の途中で立ち寄る港を整備して水や食料の補給が素早くできるようにするなど、1日で航海できる距離を稼げるシステムを作り上げた。
同じ海洋国家でもジェノヴァは違います。こちらは個人主義の国だから、船の性能、船長の力量で航海性能はバラバラ。そんなことはヴェネツィアではありえません。
また、イタリア内で見ても、フィレンツェの発展は、ローマ、ヴェネツィアとは違います。フィレンツェはメディチ家が突出して大きくなり、大財閥化して、それに引きずられる形でフィ…
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週刊エコノミスト
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