ローマとヴェネツィアに学ぶ経済発展の条件 塩野七生③(2007年5月8日)
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(2007年5月8日号に掲載)
塩野七生さんは、2006年末、ローマ帝国の興隆と衰亡を描いた『ローマ人の物語』の全15巻を完結させた。塩野さんが執筆した1国の「通史」には、ローマともう1つ、ヴェネツィアを描いた『海の都の物語』がある。ともに1000年以上を生き抜いた強国に共通する発展の条件とは何なのか。なかでも経済に関する条件を聞いた。3回に分けて掲載する。(聞き手/構成=平野純一・編集部)
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時代が変われば、投資の方向を変えるのは当然
コインからみたローマの経済
―― ローマ史は、経済の側面から見ても、実におもしろいです。
塩野 私は研究のために、ローマのコインを集めているのですが、ある時、へーっと気がついたことがありました。皇帝ネロの時代に、彼は金貨(アウレウス金貨)の金の分量を少し落とすのです。彼が浪費をしたので、経済が疲弊してしまったゆえの平価切り下げだと、歴史家は言います。でも、その後に続いた五賢帝の時代に、ローマが絶頂期を迎えても、金貨を元に戻していないのです。戻そうと思えば戻せたはずです。経済力も回復したので、悪帝が行った改悪は戻せばいいのです。でも戻していない。
それはなぜか。他の情報や史実から推測すると、経済力が上がっていったので、より多くの通貨が必要になった。つまりマネーサプライが多く必要になったということなのですね。
コインを集めていると分かるのですが、このように通貨がたくさん出回った時のコインは、いま買うと安い。逆に、すぐに殺されたりして、政権が短かった皇帝の時のコインは高い。数が少ないですから。たくさん出てくるコインは、おそらく、その時のローマ人がタンス預金していたんでしょうね。どこかにたくさん仕舞い込んでいたものが、発掘で出てくる。ちっとも使われた形跡のない綺麗なものが出てくるわけです。
私は、『ローマ人の物語』を書くにあたり、もちろん、経済も、軍備も、法律も、建築も……あらゆることを勉強しました。難しくて困ったなと思った時もありましたが、でも、日本語訳になって専門用語ばかり使ってある書物の方が分かりにくい。逆にラテン語の原文で読んだ方がよく分かるんです。どうしてかというと、玄人が素人に分かるように書いてある。やさしく書かれてあるものの方が、本質が書かれている。ローマの指導者も皇帝も、すべてが分かっていたわけではな…
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週刊エコノミスト
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