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教養・歴史 エコノミスト賞受賞者が考える 日本経済の処方箋

持続可能性と将来世代への責任 社会保障と環境問題を一体で議論 広井良典

日本経済の処方箋/17 日本は負担と給付のあり方を巡って、どのような社会を作るかという議論すら行っていない。

 日本が直面するさまざまな課題や政策に関する議論において、日本の現在そして未来にとって最も重要であるはずのテーマが、ほとんど話題になっていないように見える。

 それは「将来世代への責任をどう考えるのか」というテーマである。

 基本的な確認をすると、現在、政府の累積債務残高ないし借金はすでに約1200兆円、あるいは国内総生産(GDP)の2倍を超える規模に至っており、これは先進諸国の中で文字通り“突出”した水準である。

 日本では「政府の借金」というと“人ごと”のように思う人が多い。しかし、そもそもそれは、高齢化の中で医療や介護、年金などの社会保障の費用が年間で120兆円を超える規模になっているにもかかわらず、それに必要な税金を現在の日本人が払っておらず、その差額がどんどん膨らみ、借金として現在の若い世代そして将来世代にツケ回しされているのである。

 政府債務のあり方についてさまざまな議論があるのは承知しているが、私が最も重視すべきと思うのは「世代間の公平性」そして「将来世代への責任」という観点だ。要するに、医療や介護、年金に必要な費用は現在の世代で賄うべきであって、その負担を将来世代に回すのは世代間の公平に反し、責任を放棄しているのではないかということだ。

 いま「持続可能性」という言葉を使ったが、最初にこの概念を広く世界に提示したのは、「ブルントラント委員会」と呼ばれる国連の組織が1987年に発表した「われら共有の未来(Our Common Future)」という報告書だった。そこでは「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような発展」のあり方が「持続可能性」の定義とされた。つまり「将来世代のことを考える」ことが「持続可能性」というコンセプトの中心にあるのだ。

「昭和的」世代の成功体験

 しかし、残念ながら上記のように現在の日本はそうした姿から大きく逸脱している。なぜだろうか?

 大きく二つ理由があると私は思う。

 一つは、日本人の相当部分、特に団塊世代などを中心とする「昭和的」世代は、なお“高度成長期の成功体験”にとらわれているという点がある。そうした人々は、「経済成長がすべての問題を解決してくれる」という発想が根強く、しかも今後もなお日本は一定の高成長が可能と考えていて、「負担」や「分配」の問題に目を向けようとしない。つまり増税などの議論をしなくても、経済成長によって自然に税収は増え、やがて借金は解消されるという“成長パラダイム”に安住している層が多いということだ。

 理由のもう一つは、日本社会は概して“場の空気”を重視するので、合意形成が難しい話題は先送りし、“その場にいない人間”に負わせる傾向が強い点である。そして、考えてみれば“その場にいない人間”の典型が実は「将来世代」なのだ。

 政治家にとっても、増税などといった“耳に痛い”話は避け、さまざまな「給付」をこれだけ増やしますよ、皆さん「得」をしますよといった話だけしていたほうが選挙にも通りやすいから、こうした傾向はますます加速することになる。

 しかし、考えてみよう。高度成長期と異なって経済が構造的な低成長期に入り、しかも高齢化が進む中で、先述のように医療や介護、年金などの費用を誰がどう負担するかは社会の基本に関わるテーマである。そして、大きくいえば欧州諸国は、北欧に限らず英国、フランス、ドイツを含め主要諸国が概して消費税率20%以上であることにも示されるように、相対的…

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週刊エコノミスト

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