「私たち」という社会的アイデンティティーの力を社会心理学で分析 荻上チキ
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アイデンティティーという言葉は、広く社会に浸透している。こう生きてきた、こう育てられた、こういうものが好きだ──。「自分が何者か」を語る上でアイデンティティー=自己同一性はとても重要となる。
他方で私たちには、多くの「社会的アイデンティティー」も備わっている。どの学校を卒業したか、どの企業に勤めているか、どのジェンダーを生き、どの地域に暮らしているか──。どこかに帰属しているという意識は、「自分〈たち〉は何者か」という語りを呼び覚ます。
『私たちは同調する 「自分らしさ」と集団は いかに影響し合うのか』(ジェイ・ヴァン・バヴェル、ドミニク・J・パッカー著、渡邊真里訳、すばる舎、2750円)。原題は「The Power of Us」だ。本書は、社会的アイデンティティーや共感の持つ力について、社会心理学の知見をまとめたものである。「私たち」という語りや意識には、どんなパワーが宿っているのかを、丁寧に分析している。
誰かを「私たち」グループの一員とみなすことは、人にとって、とても重要なことだ。グループの一員が何かを達成した際には、自分が達成したかのような喜びを得ることができる。そのことは、人が「群れ」の中で生きていくうえで重要な感覚だろう。その感覚は、集団内での利他的な行動を可能にもしてくれる。
例えば、忌み嫌われがちな同調圧力=規範的影響を察する力も、人が周囲に溶け込み、集団に適応することで、排斥を回避しようとする欲求と結びついている。自分自身が不快な目にあうことを避け、安定した環境で生活することができる。
裏返せば、人は同調しない他者を、集団から排斥しがちだということでもある。また、人はしばしば、「どこまでが私たちの仲間か」の線引きを、柔軟に使い分けて生きてもいる。
例えばスポーツで、自分の大学や国のチームが勝利した時には、「私たちが勝った」と喜び、帰属意識を高めてく…
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週刊エコノミスト
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