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5月の米FOMCで最後の利上げへ インフレ抑制を目指す決意の強さ示す 鈴木敏之
米国の金融政策の見方が、米連邦準備制度理事会(FRB)と金融市場の間で大きく異なっている。FRBはインフレ抑制を優先し、次回の5月2、3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、今回の利上げサイクルで最後となる10回目の利上げを行い、政策金利(FF金利)の誘導レンジ上限を5.25%として、年内はFF金利を据え置く方針を示している。
パウエルFRB議長は3月22日の記者会見で、FOMC参加者に年内の利下げを見込む者はいないと発言し、高金利維持の意向を伝えていた。一方、FF金利先物などの動向を見る限り、金融市場は5月3日の追加利上げはなく、さらに年央からは利下げを始めるとみている。
FRBも市場も景気の見方は悲観的である。3月に出されたFOMCの経済見通しは、FOMC参加者の個々の見通しの中央値で2023年のGDP(国内総生産)成長率を0.4%とみているが、マイナス成長を予想していた参加者もいたことが示唆されている。また、4月12日に発表されたFOMC議事要旨によると、FRB本部のスタッフの経済予測は、年末にかけてマイルドな景気後退を見越していることが記されていた。
景気後退に至れば、債券市場では2年債の利回りが大きく低下する。2年債の利回りは、2年先までのスポットの先物金利の複利と裁定するので、景気後退を見込むのであれば、スポットの金利のパス(経路)はかなり大きく下落する。金融市場がFF金利が低下するパスを見込むのは自然である。
高い賃金上昇
FRBが景気後退を覚悟しながら、FF金利の高い水準を維持するというのは、インフレ率を目標の2%まで低下させるという決意の強さを示している。3月23日のFOMC以降でみると、4月7日に発表された3月の雇用統計では、労働参加率が高まっていたにもかかわらず、失業率が3.5%に再低下していた。
また、アトランタ連銀が公表する賃金上昇トラッカー(追跡調査)の上昇率は3月に6.4%に高まっていて、賃金上昇率がインフレ目標の2%と到底整合しない高さのままであることが示されている。
目下、FRBはインフレ率を、財、住宅関連のサービス、非住宅関連のサービス(NHS)の三つに分けてみているが、この6.4%という賃金上昇率ではNHSのインフレ率低下が見込めない。
景気後退を甘受してでもインフレ抑制をしようというのが、今のFRBの姿勢である。ウォラーFRB理事は4月14日の講演で、金融情勢を見ながらも「まだやるべき仕事が残っている」と結んだ。それは、5月3日に追加利上げを行うという示唆である。
FOMCの経済見通しからみて、この利上げが、今回の利上げサイクルで最後の利上げとなり、その金利水準のピークが今後もかなり長く続くことになりそうである。
(鈴木敏之・グローバルマーケットエコノミスト)
週刊エコノミスト2023年5月2・9日合併号掲載
米金融政策 5月FOMCで最後の利上げへ インフレ目標達成の強い決意=鈴木敏之