カナディアン・ソーラー、見た目と機能性兼ね備えた家庭用蓄電池システム発売――太陽光設置「実質ゼロ」プランにパネル提供も
大手電力7社が6月から電気料金を16%~40%の幅で引き上げることを受け、消費者の間で、太陽光発電への関心が高まっている。家計防衛の一手段として認識されているほか、脱炭素の流れから、東京都などの自治体が太陽光の導入に補助金を積み増していることが要因だ。
東京都が1キロワット時当たり15万円の補助金
1400万人の住民がいる東京都は2025年4月から新築住宅へ太陽光の設置を義務化するが、既設の住宅についても23年度に予算496億円を計上し、補助金の付与で太陽光や蓄電池の普及を後押ししている。既設住宅への補助金額は、発電容量3キロワット時以下の場合、1キロワット時当たり15万円、3キロワット時を超える場合は同12万円となる。そうした動きを受け、国内外のパネルメーカーもパネルや蓄電池で新製品を投入し、消費者のニーズに応える考えだ。
日本国内ではこれまでパナソニック、シャープ、京セラなどの国内太陽光パネルメーカーが高いシェアを誇っていたが、近年は手ごろな価格を武器に、外資系メーカーがシェアを伸ばしている。週刊エコノミストは本年3月21日号で、主な国内のパネルメーカーを紹介したが、今回は外資系パネルメーカーに取材し、日本での戦略や商品の特徴について複数回にわたってリポートする。第1回目は、カナダの太陽光パネルメーカーであるカナディアン・ソーラーに話を聞いた。
日本の住宅18万棟に太陽光パネルを設置
カナディアン・ソーラーは、カナダ・オンタリオに本社がある太陽光パネルメーカーで、2001年に中国系のショーン・クー会長兼最高経営責任者(CEO)が設立した。全世界に1万4000人の従業員がおり、北米、欧州、中国やインド、豪州など世界各地で業務用・家庭用にパネルを販売している。日本法人のカナディアン・ソーラー・ジャパンは2009年に設立され、国内でこれまでに個人向け住宅18万棟に太陽光パネルを設置してきた。
同社の第一の特徴は、パネルを自社で開発、生産していることだ。実は、日本のパネルメーカーも、中国・韓国勢との競争激化で、パネル生産から撤退するところが相次いでいる。大手のパナソニックも21年、マレーシアと島根工場での生産終了を発表し、その後は、外部への生産委託に切り替えている。
パネルはより発電効率の高い「N型」にシフト
日本勢が後退する中、世界の太陽光パネルの生産・開発・リードしているのは、「ジンコソーラー、JAソーラー、トリナ・ソーラー、カナディアン・ソーラー、ロンジソーラーの中国系の5社で、全世界の供給量の7~8割を押さえていると言われている」(カナディアン・ソーラー・ジャパンの山本豊会長)。そうした中、昨年から今年にかけて、パネルに技術革新の波が訪れている。具体的にはP型からN型パネルへの移行だ。P型、N型とは、パネルのセルを構成する半導体の種類を示す。これまではコストの関係から、主にP型のパネルが主流だったが、今年以降、各社とも発電効率の高いN型の新製品を投入していく構えだ。山本会長は、「P型はそろそろ発電効率の限界に来ている一方で、N型は生産コストが急激に低下している」と話す。カナディアン・ソーラーは昨年12月、N型TOPCon(トンネル酸化膜パッシベーションコンタクト)太陽光パネルの量産開始を発表した。
同社の家庭向けパネルはまだP型だが、「来年にかけN型に移行していくことは十分に考えられる。当社も含めて、N型へのシフトが迅速にとれる企業が強みを発揮できる」と技術面での優位性を強調する。
3サイズのパネルの組み合わせで、より多い枚数を配置
二つ目は、日本市場ですでに18万棟の実績があることだ。日本の住宅は、特に都市部を中心に欧米や中国に比べて狭く、その結果、パネルを設置する屋根の面積も小さい。そうした日本市場向けに、3種類の大きさのパネルを用意している。
「この三つの組み合わせによりいかなるサイズの屋根にも効率良く、より多くの枚数を搭載できる。その結果、小さな屋根でも発電効率が飛躍的に高まっている」(山本会長)。また、和瓦からスレート屋根まで、日本の様々な屋根に対応した架台や設置金具を用意しているのも強みだ。太陽光パネルは25年間の出力保証をしている。
先進的なデザインの新蓄電池システム「EP CUBE」
三つ目は、「EP CUBE(イーピーキューブ)」と呼ばれる新しい家庭用の蓄電池システムだ。「アピールポイントは見た目の美しさ」(山本会長)といい、実際にテスラの蓄電池システム「パワーウォール」と同様のデザイン性の高さが特徴だ。もちろん、デザインだけでなく、機能面でも従来製品より性能が高まっているという。蓄電池は一個当たりの容量が3.3キロワット時のブロックから成り、積み上げることで、6.6キロワット時から13.3キロワット時まで容量を増やすことができる。三元系リチウムイオン電池に比べて安全性の高いと言われるリン酸鉄系リチウムイオン電池を使っている。
蓄電池の上に一体型のパワーコンディショナー(パワコン:パネルで作られた直流の電気を家庭で使われている交流に変える装置)を載せている。パワコンと電池が一体であることが、テスラのパワーウォールとの大きな違いだ。このパワコンは、P型より出力の高いN型パネルにも対応できるように、電流の容量に余裕がある設計がなされている。蓄電池とパワコンが一体の設計なので工務店の施工性も優れているという。蓄電池の操作は、スマホのアプリで行う。7月から日本と欧州で販売を開始する予定だ。3月に東京・有明の「東京ビッグサイト」で行われた「PV EXPO」では、多くの来場者の注目を集めていた。
LIXIL TEPCOの「建て得」にパネルを提供
販売面では、東京電力、大手住宅設備メーカーのLIXILの合弁会社「LIXIL TEPCOスマートパートナーズ」が展開している太陽光パネルの設置費用が実質ゼロになる「建て得」というプランに太陽光パネルを提供している。「建て得」は、個人がLIXIL TEPCOから太陽光発電システムを購入すると同時に、余った太陽光の売電収入を同社に15年間売却する契約を結ぶことにより、太陽光発電システムの設置費用が実質的にゼロになるというものだ。具体的には、個人が信販会社と15年のローンを組み、LIXIL TEPCOから太陽光発電システムを購入。15年分の毎月の割賦代金は、個人から売電収入を得たLIXIL TEPCOが個人の代わりに信販会社に支払う仕組みだ。これは、導入コストを抑えながら、毎月の電気代を節約したり、家庭の「脱炭素」を推進する方法として、消費者の間で注目を集めている。
(稲留正英・編集部)