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国際・政治 広島サミットで考える

ロシア製核燃料に頼りつつエネルギーの脱ロシアを進めるEUのジレンマ フアマン・ミヒャエル

ロシア産エネルギーからの脱却と脱炭素を強調する欧州委員会のフォンデアライエン委員長だが、原発の対ロシア依存のリスクには目をつぶっている Bloomberg
ロシア産エネルギーからの脱却と脱炭素を強調する欧州委員会のフォンデアライエン委員長だが、原発の対ロシア依存のリスクには目をつぶっている Bloomberg

 エネルギーの脱ロシア依存を進める欧州連合(EU)だが、原子力分野では様相が異なっている。

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 EUにとって電源構成の21.9%(2022年)を占める原子力発電の推進は、脱炭素やエネルギーの脱ロシア依存という二つの観点から重要な課題だ。環境派勢力が強いEUでは原発の推進に慎重な声も根強いが、原発大国フランスをはじめとする原発保有国は原発拡大を重視している。そんな中、原発推進によりロシア製核燃料への依存度がさらに高まると警鐘を鳴らす専門家も少なくない。

 EUの原発保有12カ国のうち、5カ国でロシアが独自開発したVVER原子炉が稼働中だ(表)。ロシアのロスアトム・グループがこの原子炉を建設し、必要な核燃料の供給を一手に担ってきた。

 しかし同国によるウクライナ侵攻を受けて、チェコ政府は、22年3月に実施した原発増設の入札からロスアトムを除外することを決定。翌月にはチェコ国営電力がテメリン1、2両原発の核燃料を24年以降ロシア製から米・仏製に切り替える方針を発表した。フィンランド政府も22年5月、ロスアトムが受注した原発建設計画を棚上げした。一方、同月ハンガリー政府はVVER原子炉2基の新設計画を予定通り進めると発表、EU加盟国が脱ロシア政策で一致するのは困難なことを露呈した。

 核燃料の確保に注目すると、ロシアへの依存度の高さがさらに浮き彫りとなる。ウラン生産に占めるロシアの割合は世界の5%程度に過ぎないが、従来の大型原発の燃料となる低濃縮ウラン(LEU燃料)は4割強を供給する。欧州の核燃料製造企業の生産能力はすでに限界に達しており、VVER原子炉を運転するEU加盟国に代替燃料を供給するのは困難だ。

 さらに安全性が高いとされる次世代技術の小型モジュール炉(SMR)の運転に必要な高純度低濃縮ウラン(HALEU燃料)の供給となると、ロシアのみが商業生産を実現している。英蘭独のウラン濃縮コンソーシアム「ウレンコ」は、HALEU燃料の製造を目指しているが、製造開始の具体的な見通しがいまだ立っていない。

原子力は制裁の対象外

 欧州委員会のフォンデアライエン委員長は22年、ロシア産エネルギーからの脱却と脱炭素の二つの目標達成に向けた包括案「リパワーEU」の詳細を発表した。SMR導入に向けても積極的に取り組むと強調したが、対ロシア依存のリスクには触れなかった。EUの5カ国がロスアトム製核燃料に依存していることを背景に、EUは現在もロシア産核燃料や同国の民生原子力事業に対する投資を制裁の対象としていない。

 今年4月に脱原発を完了したドイツのハーベック経済・気候保護相は同月、ロシアの原子力分野も制裁対象に追加すべきだとの立場を明らかにした。しかし、特にロシアとの関係重視の姿勢を明確にしているハンガリー政府は、制裁導入には反対する見通しだ。EUの制裁決定は加盟国の全会一致が原則のため、今後も同分野への制裁の実現可能性は低いとみられる。

(フアマン・ミヒャエル、三井物産戦略研究所研究員)


週刊エコノミスト2023年5月23・30日合併号掲載

広島サミット 原子力 原発核燃料依存のままエネルギー脱露を進めるEU=フアマン・ミヒャエル

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