気候変動対策で欧米に攻められる議長国日本 GX投資150兆円も課題山積(編集部)
5月19日から広島市で開かれる主要7カ国(G7)首脳会議(広島サミット)では、気候変動対策が主要議題の一つとなる。主張がぶつかり合う中、日本は議長国として各国が納得できる処方箋を打ち出せるのか。
「各国が多様な道筋でゴールを目指すことが確認された」
広島サミットに先立ち、4月に札幌市で開かれたG7の気候・エネルギー・環境相会合後の記者会見で、共同議長を務めた西村康稔経済産業相は胸を張った。だが、出された共同声明からは、日本の厳しい立場が透けて見える。
その一つが、日本が温室効果ガス排出削減の主軸の一つとして進める火力発電のアンモニア混焼技術についての記載だ。日本は、燃焼時に二酸化炭素(CO₂)を排出しない水素やアンモニアを燃料とする水素・アンモニア発電を2050年に主要な電源にすることを示しており、石炭火力のアンモニア混焼などの技術開発を進めている。
逆風のアンモニア混焼
共同声明はアンモニア混焼について、「使用を検討している国があることにも留意する」という条件付きの表現にとどまった。英国などが「混焼はCO₂を十分に削減しない」と強く反対したためだ。
「完全に欧米がまとまり、日本に風当たりが来る構図になっている」。橘川武郎・国際大学副学長は、こう解説する。米国のトランプ前政権時代には、むしろ米欧が対立し、日本は陰に隠れた存在だった。バイデン政権発足後、欧米はまとまり、日本は厳しい立場が続いている。
こうした中で、政府が期待をかけるのが、2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)に関する基本方針」の下での脱炭素投資の加速だ。今後10年で官民合わせて150兆円超の投資を見込んでいる(表)。技術開発により脱炭素と経済成長を推し進め、「50年排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)」の達成につなげたい考えだ。
だが、民間企業からは戸惑いの声が上がる。あるエネルギー企業の幹部は「では、今何をするのかというのがはっきりしない」と指摘する。
例えば足元では、高度成長期に建設された企業の自家発電設備が老朽化し、建て替え時期を迎えている。しかし、50年のカーボンニュートラルが視野に入る中、コスト回収を考えると「投資リスクが大きい」(同関係者)状況だ。
融資する金融業界も状況を注視する。技術開発には大規模投資が不可欠だが、あるメガバンク関係者は「リスクやリターン、経済性など、しっかり見ていく必要がある」とくぎを刺す。
さらに、GX基本方針を分かりにくくしているのが、原子力政策だ。「再生可能エネルギーの主力電源化」と並び、「原子力の活用」が強く打ち出されたにもかかわらず、原発への投資額は示された中で最少の1兆円だ。昨夏に岸田文雄政権は、新しいタイプの原発「次世代革新炉」の開発・建設の検討を進めると表明したが、尻すぼみになり、結局、既存原発の運転延長が原子力活用の事実上の軸となっている。橘川氏は「岸田政権と電力業界は、当初から既存の原発の運転延長を狙っていたと考えると、『1兆円』で平仄(ひょうそく)が合う。原発は炉が新しい方が危険度は下がるので、運転延長は国民にとっては最悪のシナリオといえる」と懸念を口にする。
(安藤大介・編集部)
週刊エコノミスト2023年5月23・30日合併号掲載
広島サミット 気候変動対策 欧米に攻められる議長国日本 150兆円「GX」も課題山積=安藤大介