移民の女性リーダーが米政府の新たな“顔”に 小林知代
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人工知能(AI)の進化や普及に伴い、新技術を悪用した事件が増えてきている。SNS(ネット交流サービス)に投稿された動画などから入手した情報を元に、人間の声をデジタル的に複製。家族や親しい人を装い、お金や仮想通貨をだまし取るという、これまでSF小説の世界で描かれてきたような出来事が、現実に起きている。
AIの陰の部分が社会を揺るがす中で、新たに生じる犯罪の取り締まりなどを担当するのが米連邦取引委員会(FTC)だ。
FTCは、消費者保護と公正な競争を目指しており、米国の省庁の中で特に多忙な状況にある。アマゾン、グーグルなどのビッグテック(巨大IT企業)の独禁法問題に関する調査に始まり、悪質なオンラインショッピング、健康に効くとされる有機食品を巡る誇大広告の取り締まり、AIを使った差別、プライバシー保護の問題など、デジタルを巡る違法行為や、対応すべき事例は枚挙にいとまがない。
ベトナム系の女性
こうした問題に対処するために、FTCは2023年2月、「ニューテクノロジー対応部」を新設した。率いるのは、ベトナムからの「難民2世」で、ベンチャー企業の経営者から転身したステファニー・グエン氏である。
グエン氏の父親は、グローサリー(食料販売店)の店長を務め、土日には青空市場で家具を売って生計を立てていた。典型的な移民家族で育ったグエン氏は、ハーバード大学で公共政策を学び、マサチューセッツ工科大学では、米国のメディケア(高齢者向け公的医療保険)の利用者が、より効率的に保険を受けられるようにするシステム開発に携わった。その後、体に装着して健康状態を測るウエアラブル端末のアプリなどを開発し、ベンチャー企業も興した。
このままでも、シリコンバレーで大成功をおさめていただろうグエン氏だが、「公に尽くしたい」という気持ちが政府へと引き寄せた。技術を理解している人間が、取り締まりの立場を担うことに意義…
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週刊エコノミスト
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