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国際・政治 FOCUS

ゼレンスキー氏の広島サミット出席は“新しいゲーム”宣言だった 小原凡司

広島サミットで記念撮影に臨むウクライナのゼレンスキー大統領(中央)、岸田首相(左から2人目)ら各国首脳 外務省提供
広島サミットで記念撮影に臨むウクライナのゼレンスキー大統領(中央)、岸田首相(左から2人目)ら各国首脳 外務省提供

 広島市で5月19~21日に開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵略戦争が国際秩序を破壊しかねないことを再確認して閉幕した。特定の地域において生起した侵略戦争であっても、地理的概念に基づいた大国のパワーゲームとしての「地政学的ゲーム」ではなく、これを国際秩序に対する挑戦と捉え、地政学的思考を離れて国際社会全体でこれに対処する「新しいゲーム」をプレーするということだ。ゲームとは、参加者が特定の目標を達成するために戦略や技術などを駆使して行う活動やルールのことである。

 G7サミットにウクライナのゼレンスキー大統領が参加したことは、新しいゲームの宣言とも取れる。戦場となっている自国を空けて広島に来訪したのは、ゼレンスキー氏がその意義を認識するからだ。もちろん、ロシア軍をウクライナ領内から撤退させるために必要な、武器弾薬などの支援を直接要請するという戦術レベルの意義もあるだろう。

 しかし、それより重要なのが、新しいゲームとしてこの侵略戦争に対応すべきことを国際社会に訴えることだ。その鍵となるのが日本だ。欧州地域で起こっている侵略戦争に関して、G7の中で唯一、アジアに位置する日本もウクライナを支援し、ロシアに経済制裁をかけている。欧州だけの地政学的問題ではないことを示すには、日本から発信することが効果的だ。

 G7各国は、核による恫喝(どうかつ)を行って侵略戦争を起こすことはできても、目標を達成することはできないことを示そうとしている。核の恫喝の効果を信じる国が増えれば、核軍拡をやめるどころか、核不拡散の枠組みさえ揺らぎかねない。

脱「地政学的思考」

 さらに、国際秩序の意味は外交・軍事の領域にとどまらない。プーチン氏は、欧州各国がエネルギー資源の多くをロシアに依存していることを利用し、相互依存の武器化を試みた。この試みは欧州各国に対して成功したとはいえないが、国際社会全体のエネルギー資源需給の秩序を乱した。また、ウクライナから小麦などの輸出が困難になったことから食糧需給の秩序も混乱している。

 混乱で損失を被っているのが「グローバルサウス」と呼ばれる新興国や開発途上国である。ゼレンスキー氏は、国際秩序を守るために新しいゲームが必要だと示し、グローバルサウスの支持を得ることが重要だと考えているだろう。概念は以前からあるにもかかわらず、新しいゲームが実現できなかったのは、地政学的ゲームをプレーした方が有利だと考える国があるからだ。

 現在の代表格たる中国は、G7の枠組みに反発し、台湾問題などに関して米国を「域外国」と呼ぶ。G7サミット前に明らかになった北大西洋条約機構(NATO)が東京に連絡事務所を置く方針について、「日本はオオカミを部屋に入れようとしている」などと非難し、その地政学的思考をグローバルサウスに広めようとしている。G7はゼレンスキー氏とともに、国際秩序を維持する意義をグローバルサウスに示さなければならない。

(小原凡司・笹川平和財団上席フェロー)


週刊エコノミスト2023年6月6日号掲載

ゼレンスキー氏来日 広島サミットで「新しいゲーム」 宣言でグローバルサウスへ秋波=小原凡司

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