マーケット・金融

インタビュー「プラス金利で預金獲得へゲームチェンジ」田中克典・ありあけキャピタルCIO

 地銀に特化して投資を行う投資ファンド、ありあけキャピタルの田中克典・代表取締役CIO(最高投資責任者)に話を聞いた。(聞き手=安藤大介・編集部)

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── 足元の地銀業界の現状をどう見るか。

■地銀を取り巻くマクロの環境が良くなっているのは間違いない。日銀のマイナス金利政策は、地銀にとっては罰ゲームのようなものだ。本来、預金を集めることは銀行業にとって利益の源泉であるはずが、仮に金利0%で集めたとしても実際にはコストがかかり、逆ざやの状態になる。こうした状況下で株価は大きく押し下げられてきた。

 日銀の植田和男新総裁の下での金融政策で、マイナス金利の深掘りが行われると思っている人はいない。任期5年間のどの時間軸でどのような正常化が行われるかということを市場は考えている。(マイナス金利政策下の)過去5年と比較すると、追い風の経営環境になってきている。

── 2023年3月期決算では、外債でダメージを受けた地銀が多い。

■運用が厳しい環境だったのは間違いないだろう。(日本国債など)円債と外債の運用は根本的に違う。円債ならファンディング(資金調達先)は預金だ。地銀が持っている日本国債が、金利上昇で価格が下がったとしても、満期まで持てば償還される。もちろん、地銀の運用力の問題もあるが、金利が正常化すれば、日本国債を買うなど、もう少し単純な運用ができるようになる。

北国FHDと助言契約

── 東京証券取引所の有識者会議は、PBR(株価純資産倍率)で1倍を割っている企業に改善を求める方針を示した。地銀の多くは1倍割れだ。

■議論の前提として、健全性に懸念があるケースと、ないケースに分けて考える必要がある。健全性を犠牲にしてPBR1倍を目指すことは許されない。銀行は規制業種で預金取扱機関でもあり、資本を積まなければならない。一方で、健全性が確保されている銀行に関しては、他の業種の企業と同じように企業価値向上に取り組むことが求められている。

 ミクロで見れば、面白い動きは出てきている。当社は22年、(北国銀行が傘下の)北国フィナンシャルホールディングス(FHD)と、中期経営計画に関して企業価値向上に向けた助言契約を結び、株式市場で高く評価された。また、コンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)は23年3月期決算発表の際、ROE(株主資本利益率)向上と経営施策をリンクさせたプレゼンテーションをしていた。そうした観点で経営が行われるようになったのは新機軸といえるだろう。

── 今後の地銀業界の展望は?

■金利が今後、プラスへ上昇していく過程では、マイナス金利政策下でコストカットするしかなかった縮小均衡から、コスト競争力を伴っていかに規模を拡大するかというゲームチェンジが起きるだろう。(地銀の主要な投資先である)日本国債の利回りは誰もが一緒なので、安く、たくさん預金を集められる人が最も利ざやを稼げるようになる。そのため、いかに安く、粘着性がある(定着した)預金を集められるかという預金獲得競争が起きるだろう。

「預金を集めるのはいいことだ」「規模が大きくなるのはいいことだ」という世界観に変わるのではないか。


 ■人物略歴

たなか・かつのり

 1975年生まれ、東京都出身。2001年慶応義塾大大学院政策メディア研究科卒、ゴールドマン・サックス証券入社。約20年間、金融セクターを中心にリサーチアナリストを務める。20年4月に投資ファンド「ありあけキャピタル」を設立し、代表取締役CIO(最高投資責任者)に就任。


週刊エコノミスト2023年6月27日・7月4日合併号掲載

逆風の銀行 INTERVIEW 投資家の視点 田中克典 「プラス金利で地銀の経営一変 預金獲得へのゲームチェンジ」

インタビュー

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