教養・歴史書評

チベットの生活を支える重要資源としての「糞文化」について 楊逸

×月×日

 このごろ、台風も梅雨の時期にやってくるようになった。こういう時は「乾いた内容」の本を読んで気分を晴らしたい。

『チベット高原に花咲く糞文化』(チョウ・ピンピン著、春風社、3630円)は、「北九州市立大学大学院社会システム研究科地域社会システム専攻の博士後期課程に提出した博士学位論文」をもとに加筆修正して出版された一冊だ。

「糞(ふん)」と「文化」を結びつけるなんて少し違和感も覚えたが、だからこそ目を引かれて興味も湧いたかもしれない。本書が扱う「糞」は一部ヒツジやヤギのものを指す箇所もあるが、メインは「牛糞(ヤク)」である。

 海抜3500~5500メートル、世界の屋根と呼ばれるチベット高原。酸素が薄く乾燥しているうえ、冬が寒くて長いという厳しい自然でよく知られている。資源が少ない中、チベットの人々は、従順性を持ったヤギやヒツジ、ヤクを家畜にし、その乳を飲んだりチーズにしたり。また肉を食し、毛や皮をテント、敷物、袋、衣類などの材料に利用することで、次第に高地に適応した生活スタイルを築いてきたという。

 そんな彼らの生活を支えるもう一つ重要な資源は「糞」なのだ。チベット語では「牛糞」と「重厚」とが同じ発音になるらしい。

「イヌの糞や人間の糞は汚いと捉えられるが、牛糞については汚いものとは全く思っておらず、牛糞を直接手で取り扱う。神に捧げる神聖なものであるサン(筆者注:日本の護摩に似たもの)を焚(た)くときにも牛糞を燃料として使用している」

 ヤクの年齢、身体状態、口にした餌などによって「糞」も色や硬さ、形などが異なり、それに応じて燃料に使うか、建築材にするか、子どものおもちゃを作るか、魔よけとして使用するか、また女性の生理用品や消炎剤に加工するかなどさまざまな利用法があるそうだ。

 こうした「糞文化」を背景に、農村はいうまでもなく、近代化した都市部でも牛糞の需要はまだ根強く存在し、…

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週刊エコノミスト

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