米国の国際収支赤字はインフレによって調整される 堺屋太一(2004年2月10日)
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日本には今後大幅なインフレが訪れるのか。エコノミストの特集「インフレが来る!」(2004年2月10日号)で作家の堺屋太一氏が述べた歴史的な視点からのインフレ・デフレ論を振り返る。
作家、元経済企画庁長官 堺屋太一
米国の国際収支赤字はインフレによって調整される~「インフレ」「デフレ」は循環する
歴史的視点に立つと、これからはインフレの時代だ。世界経済はほぼ10年単位で循環を繰り返している。現在の米国による一国支配は13世紀のモンゴル帝国と同じ経済赤字体質、基軸通貨ドルを維持するためにはインフレによる調整が必要だ。
私は、予測小説『平成三十年』で2010年までに国際的なインフレがあり、そのあと大幅な円安になる、と予測した。今、それが現実になる可能性が高い。
世界経済の流れを10年単位で見ると、20世紀は概ね「インフレ」「ディスインフレ」「デフレ」の循環を繰り返している。まず、1900年代の最初の10年はデフレ、1910年代は第1次世界大戦でインフレ、20年代すなわちローリングトゥエンティ(流動の20年代)と呼ばれた時代はディスインフレで、ゆるやかな物価上昇期の時代だった。
30年代は世界大不況でデフレ、40年代は第2次世界大戦でインフレになった。50年代は世界的ドル不安の時代でデフレ、60年代のケネディ、ジョンソン米大統領時代はディスインフレ。70年代は石油危機で大インフレが起きた。80年代はディスインフレ、90年代はデフレの時代だった。
人間は短気で忘れっぽいから、昨今はデフレ恒久のように思いがちだが、こうした循環には理由がある。たとえば、70年代は石油をはじめとする資源の供給力と、消費需要との格差が目立ってインフレになった。ところが、資源価格が上昇すると、一方では資源開発が熱心になり、掘削技術が進んだ。他方、重厚長大から軽薄短小へという現象が起こり、需給構造が変わった。この結果、80年代に石油価格は下落し、ディスインフレの安定した動きになった。
アジアの工業化で供給過剰
その後90年代にかけては、それまで予想されなかったようなさまざまな技術、例えば、情報技術とロジスティックス(物流技術)が非常に発達し、世界的な供給体制が変わった。資源の面でも採掘技術の進歩で、同じ油田から約3倍原油生産が行われるようになり、供給過剰になった。
政策的にも、米クリントン政権の財政黒字政策、…
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週刊エコノミスト
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