中国の大手証券会社から消える“1億円プレーヤー” 岸田英明
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「金融エリート論」を打破せよ──。中国共産党の中央規律検査委員会(中規委)が2月に発表した文章「反腐敗闘争攻略戦・持久戦に打ち勝つ」の一節だ。金融業界に対し、「エリート」風を吹かせ、(過大な報酬を得て)享楽主義やぜいたくな生活に浸ることは許されない、と戒める。
中国の金融業界は、足元で各社が報酬カットを進めている。目立つのは証券業界、とりわけ投資銀行部門だ。業界大手の中信証券は同部門の従業員の基本給を15%カット、中金公司は5月支給の高級管理職向けボーナスを前年比で4割カットした、と報じられた。
中国証券業界の報酬カットの波は2022年から続いている。従業員1人当たりの年間報酬が最も高い中信証券の場合、22年の平均報酬は83.6万元(約1700万円)で前年比11.7%減、業界2位の中金公司は81.9万元(約1600万円)で同29.6%減といった具合だ。中国の上場証券会社の22年の平均報酬は前年比で2割ダウンした、という集計もある。
中金公司では21年に12人いた報酬500万元(約1億円)超の高級管理職が、22年はゼロになった。背景にはまず業界の景気後退がある。中国証券協会によると、22年の業界総売り上げは前年比21.4%減の3949億元(約8兆円)に落ち込んだ。それでも、業績が戻れば直ちに多数の「1億円プレーヤー」が復活する、とは言えない政治状況が今の中国にはある。
中国の大手金融機関のほとんどは国有企業だ。22年の高報酬証券会社10社のうち、第6位の広発証券を除き、残りは全て国有だ。必然的に党の方針、指導の強い影響を受ける。これには金融業務上の指導だけではなく、党のビジョンへの貢献や党が重視する価値観の順守も含まれる。中規委による反・金融エリート論はその一例だ。
中国では、過去に金融機関の社員や家族が自らの給与額やぜいたくな暮らしぶりをSNS(ネット交流サービス)に投稿し…
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週刊エコノミスト
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