なぜ習近平外交は中東融和を加速させられたのか 遠藤誉
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習近平氏が構想する「多極化した新秩序」は「アメリカとドル」の二つの支配からの脱却を目指す。
「多極化した新秩序」構築による米一極支配の終焉を狙う
中国の習近平国家主席による中東外交が、中東に「融和」の大きな機運を醸成している。今年3月10日に国交断絶をしていたサウジアラビアとイランの和解を仲介したことを契機に、中東諸国の間で雪崩のように、関係を改善する動きが加速している。
イランは、サウジと和睦したことに力を得て、3月13日にバーレーンとも国交正常化したいと発言、16日にはイランの最高国家安全会議議長がアラブ首長国連邦を訪問し、19日にはイラクを訪問。20日にはイランとサウジの代理戦争だったイエメン内戦も終結の見通しが立ち、4月に入るとカタールとバーレーンも外交関係を再開すると発表した。
一方、3月15日にシリアのアサド大統領がモスクワを訪問し、プーチン大統領に会い、19日にはアサド大統領がアラブ首長国連邦を訪問してムハンマド大統領と会い、シリアのアラブ連盟への復帰を話し合った。4月3日にモスクワで「ロシア、トルコ、イラン、シリア」の副外相が集まって段取りをつけ、5月7日にはアラブ連盟がシリアをアラブ連盟に復帰させることを承認した。
イスラエルも中国に接近
アメリカの「砦(とりで)」として唯一残っていたはずのイスラエルにも、習近平氏は3月9日、中国政府の中東問題特使を派遣してパレスチナ問題を話し合わせ、4月17日には秦剛外相がイスラエルとパレスチナの外相に個別に電話して、両国の和睦を呼びかけていた。結果、訪中したパレスチナのアッバス議長が6月14日に習近平氏と会い、イスラエルとの和解問題に関して話し合った。
実はイスラエルは、今アメリカとの間に修復しがたい亀裂を抱えている。というのも、今年3月にネタニヤフ首相が(最高裁の判断を国会が覆すことができるという)司法改革をしようとしたのだが、バイデン大統領が「改革案を撤回せよ」と発言。それに対してネタニヤフ首相が「外国の圧力で決定は下さない」と反論した。
それだけではない。バイデン大統領は自由に操ることができるNED(全米民主主義基金)を使ってネタニヤフ政権に対する反政府デモをあおったりしたため、ネタニヤフ氏の息子がSNSで「アメリカの差し金で反対デモが起きている」と発信するなど険悪なムードが続いている。
中国・イスラエル間では経済面における交流も非常に盛んで、イスラエルは中国をカウンターパートとして170億米ドルのイスラエル鉄道「2022~26年発展プロジェクト」を推進している。イスラエルとしては前代未聞の規模だと誇っている。サウジも石油だけに依存しない経済の多角化を目指した「ビジョン2030」を掲げ、習近平の「一帯一路」構想との協調計画を実施するため、中国とは34の投資協定に署名した。
募る米国への不信
なぜこのようなことになったのか。最大の要因は、アメリカに対する中東諸国の信頼喪失がある。中東はかつて「アラブの春」により、ほとんどの既存政権が米国のNEDが操る民主化運動により倒され、限りない混乱とさらなる紛争の連鎖へと追いやられた。NEDは1983年にアメリカのネオコン(新保守主義)の指導の下で設立された組織で、「各国の民主化を支援する」ことを名目にして、どこかの国に政府に対する不満を抱く市民がいたら、その市民を支援して既存の政府を転覆させるということを繰り返してきた。
アラブ諸国は、アメリカの「民主の輸出」を名目とした他国政府への干渉と、それに伴う戦争がもたらす被害に、もうこれ以上は耐えられないという限界まで来てしまった。NEDはアメリカの戦争ビジネスと連動しているので、結局は「民主の武器化」につながる。しかも、アメリカの言いなりにならなければ厳しい制裁を受ける。
しかし、アラブ諸国としては、何もかもアメリカの思うままになる「米一極支配」から逃れて、安心した経済活動を行いたい。
それに対して、中国は中東地域の宗教性や政治性に関して「しがらみ」がないため、経済関係だけで関係を強化できる。どの国も自国の経済は発展させたいと思っているから利害が一致するのだ。
「内政不干渉」の上海機構
こうした双方の思惑にピッタリとはまり込んだのが上海協力機構だ。その憲章には「他国の内政干渉をしてはならない」とい…
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週刊エコノミスト
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