教養・歴史書評

著者の豊富な現場取材に基づき、和平交渉のあり方ついて考える 孫崎享

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 今日国際政治で最大の課題はウクライナ問題である。私が最も着目している発言は「ウクライナ全土からすべてのロシア人を追い出すことは軍事的に非常に困難である。交渉のテーブルが最終的に解決される場所です」というミリー米国統合参謀本部議長の発言である。

 ではどのように和平が実現されるのか。難しい問題である。

 そうした折、国際政治における和平を考えるための極めて優れた本が出た。上杉勇司著『紛争地の歩き方』(ちくま新書、1210円)である。

 著者は米ジョージメイソン大学と英ケント大学で国際紛争の学問的基礎を固めた人だが、この本が秀でているのは、そうした基礎に加えて、著者が世界の紛争地を回り、いかに和解が達成されるかを現場で検証していることによる。

 この本で取り上げられた和解の対象はカンボジア、南アフリカ、インドネシア、アチェ(インドネシアの州)、東ティモール、スリランカ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、キプロス、ミャンマーと多岐にわたる。

 戦いがあれば、双方の人々の間に憎しみ、悲しみ、怒り、憤りが出る。これをどうするかが課題となる。戦いでは残虐行為などが出る。この不正にどう対応するか。著者は「応報的正義」と「修復的正義」の二つを紹介し、前者は「法を犯した者が犯した罪の報いを受けることで、正義を実現する」こととし、後者は「加害者と被害者との和解を重視するアプローチ」とする。

 カンボジアで国連は大虐殺の首謀者の法的責任追及を主張、政府は国民和解と平和維持を優先した。この選択は全ての紛争に共通する。私はカンボジア政府の選択を支持する。

×月×日

 書店でヴァレリー・ぺラン著『あなたを想う花』(早川書房)を買おうか迷った。上下2冊で厚い(総計683ページ)。総額3960円。高い。

 カバーに付いた帯を見ると、フランスで「130万部突破のベストセラー」とある。私も物を書くし、かつては20万部を超える…

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