古代ローマ人の「企業化の才能」は現代日本人にもある 本村凌二
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『完全版 ローマ人への質問』(塩野七生著、文春新書、935円)は、同著者による大作『ローマ人の物語』がローマ人の家に表玄関から入っていくのに比べて、裏庭から入っていくようなものに感じる。そこには中年男のローマ人がいて、著者らしき現代日本人が紛れこんでいって質問するのに、答えてくれるのだ。
現代にもかかわる問題としてみれば、ローマ法は今でも重要である。現代までつづく法治システムはローマ人の手で築かれたのだから。今日、わが国では改憲論議が注目されているが、これなどローマ人に言わせれば、当然のことらしい。ユダヤ人にとって法は神が定めたものだが、ローマ人にとっては人間が定めたもの。事態の変化に合わせていくのは当然すぎることなのだ。外国暮らしが長い著者にとって、護憲派の主張はユダヤ人の唱えていることのようにしか見えないらしい。
ほかにも、「古代ローマ人と現代日本人の共通点とは?」という質問がある。第一に入浴好き、第二に温泉好き、第三に部屋の内装(ローマではモザイク画や塗り絵が楽しまれ、日本では襖絵(ふすまえ)や畳縁(たたみべり)に凝る)、第四に肉より魚が好まれていること、第五に、現代風に言えば、「企業化の才能」で傑出していることだ。
風呂好きや魚好きは分かりやすいだろうが、最後の共通点については、いささか説明がいる。人類史上でも抜きんでた世界帝国を実現したローマ人であるが、意外なことにオリジナリティー(独創性)となると、さほど恵まれているとはいえないのだ。
たとえば、アーチや曲面天井(ヴォールト)も発明したのはエトルリア人であるし、学芸上の発見や開発なら、ギリシャ人にかなうはずがない。だが、原理や理論を応用して建築様式を一変し、日常生活のリズムを作る暦を開発したのはローマ人であった。
しばしば日本人はオリジナリティーに欠けるといわれる。だが、同様の非難はローマ人にもあてはまるのだ。物…
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週刊エコノミスト
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