首相を待ち受ける幾多の「宿題」 支持率回復へ対応問われる夏に 松尾良
有料記事
衆院解散が取り沙汰された通常国会が6月に閉会し、安倍晋三元首相の一周忌も過ぎた。永田町の住人たちは「今はなぎの時期だ」と口をそろえる。世間では、酷暑の訪れとともに夏休みやお盆の支度に入っている。
しかし、岸田文雄政権にとっては「宿題」に追われる夏になるかもしれない。報道各社の6月以降の世論調査で、それまで改善してきた内閣支持率が下落に転じた。5月のG7広島サミットで得た貯金を早々に吐き出し、じわじわと危険水域に近づいている。次期衆院選を見据える政府・与党には不安材料でしかない。
後手に回った「マイナ」
支持率が下がる発端になった首相の長男・翔太郎氏の問題は、首相秘書官から更迭することで一応の決着を見た。それでも政権が不評を買い続けている最大の原因は、マイナンバーカードを巡る一連のトラブルである。
今年5月以降、マイナンバーカードを使って交付された住民票が他人のものだったり、公金受取口座が別人のマイナンバーにひも付けられていたりと、問題が噴出し始めた。首相は当初、対応に本腰を入れていなかったが、支持率の低下に気付き、慌ててデータを精査する省庁横断の「総点検本部」を設置した。
マイナポイントの付与により、カードを取得する国民が急増した。「カードを普及させよう」という政権の狙いは当たったわけだが、カードが身近になればなるほど、いざ不祥事が起きれば反発もその分大きくなる。政権はそうした危機意識を欠いていたため、完全に後手に回った。
首相は、総点検について「今年秋をめど」と期限を切った。衆院解散も見据え、秋にはマイナ問題に区切りをつけてフリーハンドを得たいという思惑が透ける。ただし現状では、むしろトラブルが続々と明らかになり、対応に追われる自治体は悲鳴を上げている。矢面に立つ河野太郎デジタル担当相は、データのひも付けミスは利用者や自治体の責任だといわんばかりの発言をしたり、総点検の最中に長期の海外出張に行ったりと、関係者の神経を逆なでした。
果たして秋に収束するかは見通せず、政権運営のトゲとして残りかねない。来秋には健康保険証を廃止し、マイナカードへ一本化する方針だが、首相は「全面廃止は不安払拭(ふっしょく)が大前提だ」と廃止延期に含みを残している。
宿題はそれだけではない。政府は東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出するにあたり、7月に相次いで「お墨付き」を得た。国際原子力機関(IAEA)が「国際基準に合致する」との報告書を示し、原子力規制委員会は放出設備の使用前検査の「終了証」を東電に交付した。
韓国はいち早く放出を容認したが、中国は反発し、外交上の駆け引き材料に使う構えだ。風評被害を警戒する国内漁業者にも、放出を懸念する声が強い。
それでも首相は「春から夏ごろ」の放出方針を改めて明言した。やはり、今秋までに問題を片付けておきたい事情がある。衆院解散の可能性に加え…
残り882文字(全文2082文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める