新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

国際・政治 東奔政走

安倍元首相の銃撃死から1年余 力の衰えが見え始めた最大派閥 与良正男

「安倍晋三元総理の志を継承する集い」であいさつする岸田文雄首相(7月8日)。安倍派との関係は今後どうなるのか
「安倍晋三元総理の志を継承する集い」であいさつする岸田文雄首相(7月8日)。安倍派との関係は今後どうなるのか

 安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した事件から1年余が過ぎた。にもかかわらず、安倍氏が率いていた自民党の最大派閥・安倍派(清和政策研究会)の後継会長がいまだに決まらない。

 7月6日の派閥総会でも、新体制の議論を加速させることを確認しただけだった。むしろ、派内の路線対立は一段と深まっているといっていいだろう。

 派内模様を整理しておこう。

 安倍氏の死去後も「安倍派」と名乗っている同派は現在、塩谷立、下村博文両元文部科学相が「会長代理」として派閥運営の中心を担っている。

 一方、萩生田光一政調会長、西村康稔経済産業相、松野博一官房長官、高木毅国対委員長、世耕弘成参院幹事長の5人を「5人衆」、もしくは「5人組」と呼ぶ。

 塩谷、下村両氏が「誰か一人を会長に選ぶべきだ」と主張しているのに対し、萩生田氏らは「5人衆」による集団指導体制を求めている。これが対立構図である。

 もちろん対立の根底には「この人なら」と衆目が一致する人材がいないという深刻な事情がある。同時に双方とも、新体制に変わるのを機に派閥が分裂することだけは避けたいと考えるから、結論の先送りが続くことになる。

「今も派閥に最も影響力があるのは森喜朗元首相だ。この際、『森会長』でいいではないか」。そんな皮肉まで聞こえるほどだ。

「分裂と脱藩」の歴史

「わが派は分裂と脱藩の歴史だ」──。その森氏が、かつてこう語ったことがある。

 確かにそうだ。1991年5月に病死した安倍氏の父・安倍晋太郎氏の後継争いでは、もともと旧国鉄の民営化問題を巡ってライバル関係にあった三塚博氏と加藤六月氏が激しく対立。結局、森氏や小泉純一郎氏らが推した三塚氏が新会長となったが、その後、加藤氏らのグループが脱会した。

 98年、森氏が派閥会長に就いた時には森氏と亀井静香氏が対立して亀井氏が離脱した。そして2008年の自民党総裁選の際には、それまで極めて親密だった森氏と中川秀直氏との間で意見が割れ、後に中川氏は派を去った。

 とりわけ91年当時は、私は同派の担当記者だったから、鮮明に記憶している。「安倍晋太郎さんが生前、後継者を指名していたら、こんな分裂には至らなかった」といった声を、あの頃、よく聞いたものだ。

 後に「仮に指名していたとすれば誰だったでしょうか」と、安倍晋三氏に尋ねたこともある。

「塩川正十郎さん(後に小泉政権下で財務相)だったと思う」と晋三氏は答えた。実際、加藤六月氏は自分が後継会長に名乗りを上げるのではなく、塩川氏を推した。だが、すでに高齢だった塩川氏を推す声は派内に少なかった。

 晋太郎氏はそんな派内事情を承知していたからこそ、後継を指名できなかったのだと思われる。

 一方、今回の場合は予想もしなかった銃撃死である。晋三氏は「これからじっくり決めていく」くらいの算段だったろう。迷走するのは当然かもしれない。

 しかし……と私は思う。

 そもそも自民…

残り865文字(全文2065文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)が、今なら2ヶ月0円

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事