また先送りされた皇位継承議論 意欲見せるも細田議長が障害に 野口武則
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岸田文雄首相は通常国会の閉会を受けた6月21日の記者会見で「先送りできない課題に一つ一つ結果を出していく」と決まり文句を繰り返した。しかし、大幅に増額する防衛費や、最重要政策である少子化対策の安定財源は棚上げにされた。もう一つ、先送りされた重要課題がある。皇位継承を巡る問題だ。
議論の扉が開く兆しはあった。だが、政権も国会も本気度は乏しく、結局、霧消してしまった。
政府の有識者会議が報告書をまとめ、首相から細田博之衆院議長と山東昭子参院議長(いずれも自民党出身)に手渡されたのが2022年1月。皇族数の確保策として、①女性皇族を結婚後も皇室に残す(いわゆる女性宮家)、②旧皇族の血筋を引く男系男子を養子縁組で皇籍に復帰させる──の2案を軸とする内容だ。①は旧民主党の野田政権で検討され、②は自民党保守派が求めていた。
上皇さまの退位を実現した特例法の付帯決議は、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」について政府が検討を行い、「速やかに国会に報告」するよう求めた。ところが、検討を要請した側の国会が放置し続けている。
憲法1条で「国民統合の象徴」と定める天皇を巡る議論は、与野党の対立構図にならぬよう細心の注意を払わなければならない。小泉政権の女性・女系天皇容認の有識者会議は05年1月、第2次安倍政権の退位特例法を巡る議論は16年秋に始まった。いずれも直前の夏に参院選を終え、衆院解散がなければ当面は大型の国政選挙がない時期だった。
岸田政権も21年秋の衆院選に続き、22年7月の参院選で勝利し、安定的に政権運営ができる「黄金の3年」を手にしたと言われていた。
参院議長交代を契機に
条件は整ったはずだった。
参院選後の22年8月、参院議長が山東氏から尾辻秀久氏(自民出身)へと交代した。山東氏は男系継承維持が持論で、女性宮家に慎重な考えだった。
あるベテラン議員は「議論開始は山東氏の交代を待ってから、という内々の合意が与野党間にあった」と明かす。一つの歯止めが取り除かれた。
野党も前向きだった。参院副議長に就いたのは長浜博行氏(立憲民主党出身)。野田政権の官房副長官を務め、女性宮家創設の論点整理を担当した。
ところが、安倍晋三元首相の銃撃事件と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題が直撃した。清和会(現安倍派)は教団と長年関係があり、かつて領袖(りょうしゅう)を務めた細田氏は接点があった。公の場での説明に応じず、野党が反発する材料となってしまった。
とりまとめ役が疑惑を持たれたままでは、皇室問題を落ち着いて議論できるはずがない。
にもかかわらず、「細田氏は通常国会で皇室問題を動かそうと考えていた」と複数の与野党議員が証言する。国会関係者によると、国会召集前の1月初め、細田、尾辻両氏が今後の進め方を話し合う場があったという。
安倍氏「やってください」
なぜ細田氏は意欲を見せ…
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週刊エコノミスト
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