サミット後解散のシナリオ崩壊 「選挙の顔」に疑問符も 人羅格
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通常国会閉幕を受けた与野党は、秋の臨時国会冒頭に衆院が解散される展開もあり得るとみて、選挙準備に追われている。「広島サミット後解散」を巡る6月の解散見送り騒動は、結果的に政権の体力を消耗した。岸田文雄首相の「選挙の顔」としての力に疑問符がつき始めている。
マイナ混乱が打撃に
マイナンバーカードを巡る混乱のダメージを色濃く反映した、国会閉幕を受けた6月21日の首相の記者会見だった。
カード普及の推進を巡り、来秋の健康保健証の廃止が国民に不安を与えている。首相は「全面廃止は国民の不安の払拭(ふっしょく)が大前提だ」と延期に含みを持たせたが、従来方針の見直しには踏み込まなかった。「柔軟対応」を印象づけたい苦肉の言い回しである。
当面の焦点である秋の衆院解散や内閣改造・党役員人事についても言質を取られまいと、フリーハンド確保を意識した中立的な言い方だった。
それもそのはず。閉幕前後に行われた各種世論調査で、内閣支持率は10ポイント以上も急落し、広島でのG7サミット以前の水準に戻った。このまま本当に民意を問い、選挙を戦うことができるのか。そんな疑問が与党にも急速に広がりつつある。
それにしても、会期末の解散騒ぎは何だったのか。
首相は国会終盤の6月13日の記者会見で自ら「諸般の情勢を総合して判断する」と語り、解散風をあおった。従来の「考えていない」からの変化は明らかだった。
広島でのG7サミットの余勢を駆って、統一選で伸長した日本維新の会など野党の準備が進まぬうちに首相が解散を断行するという見方はかねてからあった。首相発言を受けて「野党が内閣不信任決議案を提出すれば解散」との緊張が広がったのは当然だった。
ところが首相は2日後、15日夕に一転、解散見送りを明言した。終わった話とはいえ「最初から解散するつもりがない、単なる脅し」だったのか、それとも「実際に検討したが、選挙情勢を懸念してあきらめた」のか。
メディアの報道は、野党向けの脅しで首相が意図的に解散をあおったとの解釈が多い。
だが「脅し説」には疑問がつきまとう。仮に、野党に本当に不信任案を出してほしくないのなら、発言はけん制にならない。逆に提出を見送ると、立憲民主党は「脅しに屈した」形になるためだ。
国会で大詰めだった防衛財源確保法やLGBT理解増進法の審議の後押しが狙いだったという解説もある。首相も閉幕時の会見ではそう、言いたげだった。だが、わざわざあんな発言などしなくても、成立は動かぬ状況だった。
5月時点で、会期末解散が首相の選択肢のひとつだったことは確実だろう。実際、広島サミットの直後、内閣支持率は上昇した。
ところが長男、翔太郎氏の首相公邸での忘年会開催が批判を呼び、首相秘書官更迭を迫られる失点があった。これにマイナカードを巡る混乱や、健康保険証廃止への批判が追い打ちをかけた。
さらに、公明党との不協和…
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週刊エコノミスト
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