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自殺防止の専用ダイヤル「988」 精神疾患の危機を救えるか 峰尾洋一

 昨秋に実施された調査結果によると、米国民の9割が「米国が精神疾患の危機に瀕(ひん)している」と考えているようだ。自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)は、2000年には10.4人だったが、10年は12.1人、21年は14.0人と長期増加傾向にある。そんな中、昨年7月16日に、自殺願望を持った者が気軽に電話やチャットができる3桁の自殺防止専用ダイヤル「988」の運用が始まった。

 自殺抑止のためのホットライン自体は、先行して05年、電話番号10桁のフリーダイヤルが設置されている。今回は、電話番号を緊急時に思い出しやすく、かけやすい3桁に変え、更にインフラ面の向上や人員拡充支援のため、連邦政府の資金導入が決まった。

 このホットラインは、各州や地方に存在するコールセンターのネットワークを全米でつなげる仕組みだ。経験のある電話の受け手が、話を聞く▽必要に応じて地元の診療施設を紹介する▽危機が迫っている場合には警察に通報する──などの対応を取る。地元コールセンターに一定時間以上つながらない場合には、他地域の緊急対応施設に電話が転送される。

 連邦政府は22年予算で4億3200万ドル(約600億円)を拠出。また20年成立の連邦法は州政府がホットライン維持のために手数料を課すことを認め、既に6州で徴収に向けた動きが始まった。

 988ホットライン開始以降、それまで年間330万回程度だった使用回数が、今年5月までの10カ月だけで既に400万回に達した。使い勝手の向上や待ち時間の短縮などが機能した形だろう。

 米国の自殺率やホットライン使用回数が上がる背景はさまざまだ。まず、精神疾患に対するケアが十分でない点が考えられる。19年の調査だが、不安障害や鬱の症状を感じると答えた2160万人の成人のうち、850万人(39%)が、診療(カウンセリングや薬の処方など)を受けていなかった。特に無保険や、企業保…

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週刊エコノミスト

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