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ウクライナ産穀物輸出協定 ロシア離脱で秋に小麦値上がりも 小菅努
ロシア外務省は7月17日、同日に期限を迎えたウクライナ産穀物輸出協定「黒海穀物イニシアチブ」の延長に合意しないと表明した。19日にはウクライナへの船舶の入港を原則として認めない方針も示し、攻撃対象になる可能性を警告した。さらに主要穀物輸出港オデッサに対して連日攻撃を行い、ウクライナ側の発表だと中国向けに出荷が予定されていたトウモロコシ6万トンなどが喪失した。
黒海穀物イニシアチブは、戦時下でも穀物輸出を継続することで食料危機を回避するためのものであり、過去1年間で累計3286万トンの穀物と植物油を輸出してきた。しかしロシアは、貧困国ではなく、欧州が主な購入国になっていること、穀物輸出回廊がロシアに対するテロの温床になっていること、国連との間で締結したロシア産農産物や肥料輸出を正常化する覚書に進展が見られないことなどを理由に、協定からの離脱を表明した。
米農務省(USDA)のデータによると、2023/24年度の輸出市場におけるウクライナ産のシェアは小麦が5%、トウモロコシが10%と推計されている。また、植物油もヒマワリ油と菜種油の主要輸出国とあって、ウクライナ産農産物の輸出が途絶すれば、小麦粉や食肉、植物油などの需給と価格に大きな影響が生じる可能性がある。しかも、7月21日にはウクライナもロシアの港に向かう船舶が攻撃対象になると報復を宣言しており、ロシア産の農産物や肥料輸出にも混乱が生じる可能性がある。
購入国は中国と欧州
ウクライナ産穀物の主な購入国は中国と欧州であり、ウクライナからの輸出が途絶えても、ただちに国際的な食料危機を招くものではない。しかし、輸出合意の停止がこのまま続く場合には、各国がウクライナ産の代替調達を求める動きが、世界の食料供給フローに強い圧力をかけることになる。8月の価格動向によっては、日本政府の10月期の輸入小麦の売り渡し価格改定にも影響が生じ、国内でも小麦粉、そして小麦関連製品価格などの値上がりにつながる可能性もある。
国連は陸路での輸出拡大などの案を出しているが、東欧ではすでにウクライナ産穀物の流通が目詰まりを起こしており、これ以上の輸出拡大は現実的ではない。ロシアは過去1年にわたって農産物や肥料の船舶輸送、保険、決済、更に農業機械などの分野の制約が全く解消されていないことに強い不満を示しており、合意を履行できないと態度を硬化させている。
ロシア農業銀行を国際決済網SWIFTに復帰させることができるかが、鍵を握ると見られているが、米欧は制裁解除に慎重姿勢を崩していない。ウクライナ産の大口の買い手、かつロシアと友好的な関係にあるトルコや中国などの仲介が期待されている。
(小菅努・マーケットエッジ代表取締役)
週刊エコノミスト2023年8月8日号掲載
FOCUS ウクライナ戦争 ロシア穀物合意離脱 秋に小麦価格上昇も=小菅努