首都直下地震を「想像」する 「災害シナリオ」で疑似体験を/154
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東京都が昨年5月に見直した首都直下地震の被害想定では、新たに「災害シナリオ」が加えられた。これは地震の発生から時間を区切り、直後、3日後、1週間後、1カ月後に復旧はどう進むか、避難所での生活がどう変化するかを、時系列で示したものである。リアルなシナリオとして災害を想像することが、災害への備えとして最も役に立つ。その中身を具体的に見ていこう。
地震発生直後には、未固定の家具の転倒やエレベーターの停止が生じる。3日後からは、食料などの備蓄が枯渇して避難所へ移動するが、ごみが回収されず悪臭が出る。1週間後からは避難生活により心身の機能が低下して体調を崩す。1カ月後からは体調を崩す人が増加し、人手不足により自宅の修繕ができない──といったことが想定されている。
都が今回、被害想定を10年ぶりに見直した際、死者数などの被害想定が前回に比べ3割ほど減ったことが注目を集めたが、数字に表せないさまざまな事象を「災害シナリオ」として取り上げたことは大きな意義がある。すなわち、災害を時間の経過とともに具体的なイメージとして示すことで、市民一人ひとりが現場の状況に合わせてどんな対応が必要になるかを考えてもらう狙いである。
略奪、窃盗まで
その中には、避難生活を送る際のシナリオも盛り込まれている。地震発生直後には帰宅困難者も避難所へ殺到し、3日後から自宅にいた人も加わって、物資の不足によってストレスが増加する。1週間後からは、高齢者の病状が悪化して避難者同士のトラブルが発生し、1カ月後からは避難者は減少するものの、略奪や窃盗など治安が悪化する──といった内容である。
一般に自然災害では、不意打ちを受けた際に被害が増大する。人は自分が経験したことしか対応できないものであり、「災害シナリオ」を用いて疑似体験しておくことは、災害を減らす効果が非常に高い。1995年の阪神・淡路大震災と2011年の東日本大震災では、地震の直後は防災意識が高まって備蓄も進んだが、時間とともに記憶が風化しており、首都直下地震と聞いても人ごとになりかけている。
都は25年度末を目標に、耐震性が不十分な旧耐震基準の住宅のおおむ…
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週刊エコノミスト
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