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習氏のキッシンジャー氏100歳祝いから脱“反米親露”を読み取る 金子秀敏

 中国の習近平国家主席が7月20日、北京の釣魚台迎賓館にキッシンジャー元米国務長官を招き、100歳の誕生日を祝った。

 キッシンジャー氏の誕生日は1923年5月27日で、誕生祝いは口実にすぎない。中国経済が急速に悪化して若年失業率が高止まりし、輸出が落ち込んでいる。習氏は、対中半導体輸出規制を強める米国との関係を改善し、外資のAI(人工知能)関連投資を復活させたいと焦り出した。

 だが、自分で頭を下げたくないので、半世紀前に米中関係を正常化した「古い友人」、キッシンジャー氏にバイデン米政権へのメッセージを託したのだ。

 大テーブルの上を生け花や縁起物の人形で豪華に飾り付けた。部屋は1972年、ニクソン大統領に同行して周恩来首相(当時)と会食した時の「5号楼」で、北京ダックなどのメニューも同じだ。ナプキンクリップは長寿と知恵を意味する瓢箪(ひょうたん)の木彫品で、記念品として渡された。

「競争関係」という名の敵対関係にある米中関係を、平和共存の原点に戻そうと習氏は突然、ハンドルを切った。引退したキッシンジャー氏のバイデン政権への影響力は限られているが、習氏は「古い友人」の知恵にすがるしか手がなくなった。

 習氏がキッシンジャー氏に頼ったのは、米中軍事対話の再開だ。習氏との会談前の18日には、李尚福国務委員兼国防相と会談し、19日に外交トップの王毅・党中央政治局委員と会談した。王毅氏は、外相の頃からキッシンジャー氏と親交があり、誕生祝い外交の仕掛け人を務めた。

 李氏は軍事委員会装備発展部長の時にロシアへ武器輸出をしたとして、米政府が制裁を科している人物だ。米国は李氏の制裁を解除するには、ロシア向け武器輸出を停止する「政治決断が必要」(ブリンケン国務長官)と迫る。

 サンフランシスコで11月に開かれるとされる2回目の米中首脳会談を前に、対米関係の改善と親露政策の修正を迫られた習氏は、それがキ…

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週刊エコノミスト

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