経済・企業 EV試乗記

日産サクラのオーナーになって確信できたこと 土方細秩子

ゴルフバッグも積める日産の軽自動車EVサクラ(筆者撮影)
ゴルフバッグも積める日産の軽自動車EVサクラ(筆者撮影)

 日本のEVシフトは軽自動車と商用車を中心に確実に進む。EVに詳しい筆者がオーナーとして実感をつづった。

日本はやはり軽と商用からEV普及

 今年3月に日産自動車の軽EV(電気自動車)「サクラ」を購入した。個人的には今EVを買うならテスラ一択だと思っていたのだが、老母が運転することを考え、「プロパイロット」という運転支援機能が付き、取り回しが良いサクラに決めたのだ。

 サクラは人気のため希望の外装色などは納期が半年以上先といわれたため、必要なオプションが付いた在庫車を選んだ。そのため色は黒と軽としてはやや渋め、価格は諸経費など込み込みで313万円だった。政府によるいわゆるエコカー補助金が55万円出るが、残念ながら筆者の暮らす京都では自治体の補助金は出ない。

街乗りなら十分

 しかし、うれしい誤算だったのは、充電回数の少なさ。最初の3カ月老母が1人で運転していたのだが、なんと充電は自宅で月1回。自宅周辺の買い物などで利用する限りこれで「十分だった」という。私自身が運転し始めてからは充電回数は増えたが、それでもゴルフなどに利用しても今のところ2週に1度の充電で事足りている。

 サクラの「最大の欠点」といわれるのが1充電当たりの航続距離が180キロメートルと短い点だが、遠出をしない日常使いでは全く問題がない、といえる。

 また最近の軽は室内のサイズが大きい。普通乗用車と比べても車高は高く、ガソリンタンクがない分広々としている。特に後部座席はかなり広く足元に余裕がある。後部座席を倒せば大きな荷物も積み込める。ゴルフバッグも三つまでは積めそうだ。

 内装もそれなりの高級感があり、複雑でない分、計器類も本能的に使いやすい。不満があるとすればUSBポートがかなり上にあり、携帯をつなぐとコードが邪魔に感じることくらいだろうか。

 肝心の走りだが、大満足だ。EV特有のなめらかで静かな加速感があり、山道の加速もスイスイで、気がつくと思いがけずスピードが出ていたりする。テスラのように加速を売りにしていない軽でもこれだけパワフルな走りができることに、車作りのうまさを感じる。もちろん高速走行も、重い電池が床に敷かれ、重心が低いせいか、揺れもなく非常にしっかりしている。

 何より、軽は車長が短く幅も狭いため、取り回しが楽だ。京都の道の狭さはよく知られているが、あまりヒヤヒヤせずに走行できる。実は以前に乗っていた中型SUV(スポーツタイプ多目的車)は老母が運転すると擦り傷だらけになっていたのだが、サクラに代えてからは車の周囲360度が一目で確認できるモニターの威力もあってか今のところ無傷だ。

 充電は筆者の場合自宅充電で110ボルトの通常電源を使うタイプのため、時間はかかる。しかし外に出れば日産ディーラーで10分間550円の急速充電が使える。ちなみに日産が提供する充電プランは月の無料充電回数が10回、20回、40回のものがあり、それぞれ4400円、6600円、1万1000円だ。

 ただし、サクラの姉妹車である三菱自動車の「ekクロスEV」だと三菱の充電プランが使え、こちらは入会金1650円、ベーシックが月550円で三菱ディーラーだと30分165円で充電できるほか、他社の充電ネットワークも利用できるのでややお得かもしれない。

 遠出する回数がそれほど多くなければ日産サクラは十分に日常の使用に堪えるし、車の価格など初期費用は高くてもランニングコストを考えると5年以上乗り続ければ十分にリーズナブルな選択といえる。

商用EVは整備がカギ

 商用車の部分でも、このところ動きが激しい。トラックメーカーが電動化を打ち出したことも大きいが、中型のバンや小型車で街中で使えるEVが発表されていることは日本の物流のあり方を変える原動力にもなり得る。

 なかでも注目すべきは京都大発のベンチャーであるフォロフライの存在だろう。同社は中国で生産するファブレス方式(自社で製造せずに委託製造をするメーカー)で、現在複数の企業に試験的納品を行っている。最近では九州のCOOP(生活協同組合)での採用も決定した。

京大発ベンチャー・フォロフライの商用EV 筆者撮影
京大発ベンチャー・フォロフライの商用EV 筆者撮影
小間裕康CEO
小間裕康CEO

 フォロフライにはバンタイプと小型トラックタイプの2車種があり、どちらも1充電当たりの航続距離は300キロメートルほど。市内の配送などを行う分には十分な距離だ。同社の小間裕康代表取締役CEO(最高経営責任者)は以前から「日本の物流を100%電動化」することが目標、と語っていた。

 同社の凄(すご)みは、普及前からEVメンテナンスのサポート網を築き始めている、という点だ。まず今年6月8日、三井住友海上火災保険と提携し、フォロフライの整備ネットワーク作りが始められる、と発表された。

 それに関連し、7月20日には汎用(はんよう)の車両故障診断スキャナーメーカー大手、インターサポート(高松晃貴代表取締役CEO)との提携も発表された。今後インターサポート社の製品であるGスキャンにフォロフライが追加され、両社は共同で整備員の教育、研修なども提供していく、という。

 EVを導入する企業にとっての不安材料は充電と整備だろう。充電ネットワークは徐々に整備されつつあるが、故障などのメンテナンスに対してもこのように全国的なネットワークが構築されることで、企業側の不安解消にも役立つ。EVが普及してから利用者の要望に応えるのではなく、普及前にこうした体制をしっかりと作り上げることは非常に重要だ。

 テスラが全米に充電ネットワークを敷いたのはまだEVが数万台しか売れていない頃だった。しかし今になって、米国ではテスラのスーパーチャージャーが急激に統一規格化し始めた。他社の充電ネットワークが追いつけないところまで台数を増やしてきた結果だ。

 同様に、今からEVの整備網を敷くことで、フォロフライが近い将来に受けるメリットは多大なものになるだろう。他社がこのネットワークに参加することで、日本のEV整備のスタンダードになることも可能だ。

 結論として、日本のEV化は小型車と商用車から、と筆者が主張してきたことはやはり正しかったのではないか。サクラの売れ行きが好調というのもうなずけるし、商用車に関しても今後本格的な導入が始まり、その使い勝手の良さからじわじわとEV化は進むと予測できる。

(土方細秩子・ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年8月15・22日合併号掲載

日産サクラに乗って分かった! 日本のEV普及は軽と商用から=土方細秩子

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