教養・歴史書評

描いても書いても面白い 漫画家・東村アキコ初の文章エッセー 美村里江

×月×日

 きっとエッセーを書いても面白いだろうなと思っていた漫画家さんの初エッセー。『もしもし、アッコちゃん? 漫画と電話とチキン南蛮』(東村アキコ著、光文社、1540円)が想像以上に良かった。

 ギャグから少女漫画まで幅広い作品を描き、映像化もされているが、中でもエッセーコミックが大好きだ。いつも漫画のコマの枠外まではみ出して注釈やフォローが多く書かれているのが楽しく、今回は1冊まるまるそれが味わえるのだから、笑っているうちにすいすい読み終えてしまった。

 最大の魅力は「漫画家になりたい!」という気持ちになるまでの幼少期の逸話や小話の充実ぶり。それを読みたくて買ったので大満足だ。

「なんともいえない場の空気」をよく記憶していて、自分の欠点も含め俯瞰(ふかん)することが上手。誰にでも分かる例えの数々も素晴らしい。登場するかつてのクラスメートや、ひょんなことで居合わせた人物の描写が細かいので、自分もその場で見ていたような気分になる。その分、後半はやや駆け足だが、本作は書き下ろしとのこと。一気に書かれた本にしかない勢いの気持ち良さがあった。

 タイトルの「電話」は父親がNTTの前身である日本電信電話公社に勤めていたことによる。この父が主題となったコメディー漫画もあり読者にはなじみ深いが、スマートフォン時代になって変わっていく漫画への思いなども書かれ、新鮮だった。

 ところで「チキン南蛮」といえば著者の出身地・宮崎県の名物料理だが、使う部位は鶏のムネかモモかというご当地問題に触れ、「お客さんに出す時はモモ・ムネ両方出す」とあって驚いた。つまり普段は必ずどちらかだということで、それほど派閥が分かれているとは……。

 ちなみに私は著者と同じ「ムネ派」である。

×月×日

 読者が「あー、あるある」と共感できるようなネタはエッセーでも鉄板で、名手がたくさんいる。でもちょっと飽和状態で、探してまで読まない…

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